神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第82回】歌代美遥

大人の遊び場

歌代美遥
(「ホトトギス」「玉藻」「篠」同人)

神保町という街に、恋した機縁は「銀漢亭」である。

本の街である喧騒から逸れた小路に、夕方から、大人の遊び場、「銀漢亭」の看板に灯りがつき始めると一人二人と店内に人が入っていく。

入口の扉を開けると、細長い店内の天井にブルーの星屑が輝いている。知っている人、知らない人関係なく垣根を超えて俳縁の繋がりが、アットホームの情調ある和やかさに、心から解放されていく。

「OH!句会」に誘われ参加したきっかけから、大はまりしました。「OH!花見」「OH!納涼」「OH!月見」「OH!つごもり」と、年4回の句会が毎回参加者が多く、騒めきもまた、句会を盛り上げました。 そして、沢山の差し入れの銘酒、ワイン、美味しい食べ物でテーブルが彩られます。

特に人気のあるのは、銀漢亭のご主人である伊藤伊那男さんの焼そばで、どんと大盛りの大皿がテーブルに置かれると、歓声があがる。どんどん減っていく焼そばはお酒のおつまみにもなります。いよいよ、互選が終わり入選発表の頃には、酔いも周り満腹に満たされた幸福感で店内は一体感で満たされます。

参加できたご縁は宝である。「銀漢亭」で新たな出逢いの交友関係が広がり、友人が句集を編んだといっては、集合してお祝いの場になったり、受賞の友人を祝ったり、また、旅の途中に「銀漢亭」で待ち合わせたり、思い出が尽きません。

扉を開けば、伊那男さんの豊かな微笑みと、手作りの美味しいお料理がもてなしてくれる。閉じてしまった「銀漢亭」は、心にしっかりと刻みいつまでも生き続けます。

伊藤伊那男さま、お疲れ様でした。

そして、ありがとうございました。


【執筆者プロフィール】
歌代美遥(うたしろ・びよう)
青森県八戸市生まれ。俳人協会、伝統俳句協会会員、千葉作家協会会員。「ホトトギス」「玉藻」「篠」同人。著書に、フランス人と日本人の30人による 『俳句三十人集』。



  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2021年4月分】
  2. 神保町に銀漢亭があったころ【第114回】中村かりん
  3. 秋櫻子の足あと【第11回】谷岡健彦
  4. 【連載】新しい短歌をさがして【4】服部崇
  5. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第42回】 山中湖と深見けん…
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第60回】片山一行
  7. 笠原小百合の「競馬的名句アルバム」【第2回】1993年・七夕賞…
  8. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第10回】水無瀬と田中裕明

おすすめ記事

  1. 【新番組】ゆる俳句ラジオ「鴨と尺蠖」【第1回】
  2. 「パリ子育て俳句さんぽ」【11月27日配信分】
  3. クッキーと林檎が好きでデザイナー 千原草之【季語=林檎(秋)】
  4. 「パリ子育て俳句さんぽ」【8月27日配信分】
  5. 笠原小百合の「競馬的名句アルバム」【第1回】2012年・皐月賞
  6. 風の日や風吹きすさぶ秋刀魚の値 石田波郷【季語=秋刀魚(秋)】
  7. 【冬の季語】冬蟹
  8. 名ばかりの垣雲雀野を隔てたり 橋閒石【季語=雲雀野(春)】
  9. 虹の空たちまち雪となりにけり 山本駄々子【季語=雪(冬)】
  10. 【連載】歳時記のトリセツ(13)/関悦史さん

Pickup記事

  1. 魚のかげ魚にそひゆく秋ざくら 山越文夫【季語=コスモス(秋)】
  2. 【夏の季語】日傘
  3. 廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥【季語=春日(春)】
  4. 神保町に銀漢亭があったころ【第112回】伊達浩之
  5. ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ  なかはられいこ
  6. こんな本が出た【2021年5月刊行分】
  7. 左義長のまた一ところ始まりぬ 三木【季語=左義長(新年)】
  8. 猿負けて蟹勝つ話亀鳴きぬ 雪我狂流【季語=亀鳴く(春)】
  9. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2021年12月分】
  10. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【番外−2】 足摺岬と松本たかし
PAGE TOP