みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花【季語=洗ひ髪(夏)】

みじかくて耳にはさみて洗ひ髪

下田(しもだ)(じっ)()

(はしづめきょらい)


ジョギングを始めた時、モチベーションアップと記録のためにアクティビティトラッカーを買った。約2年間、走らない時は単なる時計として、ほぼ毎日使っていたのだが、先日とうとう壊れてしまった。新しく迎えたのは、GARMIN Forerunner 165。走った距離と時間や速度、体調などの記録ができる時計で、怠けがちな私を応援してくれる。長く走れるようになりたい。

スラムダンクが好きな理由のひとつに、嫌なキャラクターがいないということがある。ライバル校の選手、ちらっとしか出てこない登場人物にも、それぞれ違った魅力があって、全員のことが好きになる。けれど、一人だけ選ぶなら、諦めの悪い男こと三井寿みついひさしが一番好き。憎めない性格も、抜群のバスケセンスも、もちろんビジュアルも。ビジュアルについては、物語中にかなり大きく変わって、長めワンレングス、センターパーツのヘアスタイルからばっさりと切って短くなる。

みじかくて耳にはさみて洗ひ髪

「洗ひ髪」とは、洗った髪のことで、夏の季題。髪は季節に関係なく洗うけれど、汗をかきやすく、また臭いやすくもなるため、頻繁に洗うということで夏とされている。作者は、1907年生まれの下田實花しもだじっか山口誓子やまぐちせいしの妹で、新橋で芸者をしていた。
 
この句は「洗ひ髪」の句だけれど、どちらかといえば、髪が短いことの方に重心がある。髪を切ったすぐ後に髪を洗うと、その軽さにいつも驚く。シャンプーは少ない量で泡立つし、洗うのも、濯ぐのも、乾かす時間もとても短く、髪が短くなったことを改めて実感する。また、「耳にはさみて」という言葉に、短い髪の自分にまだ慣れていないような雰囲気があるので、髪を切ったばかりだろう。
 髪を切ることは大抵の場合、日常的なことで、頻度に違いはあっても、爪を切るとか、歯を磨くなどと同じようなことだと思う。ただ、髪はなにかの区切りや変化の時に、意志をもって切ることがある。

「なんだその髪型は」「スポーツマンみてーだな」三井に声をかけたのは、かつての不良仲間、鉄男だった。黙る三井に、「そっちの方が似合っているよ おめーには」「じゃな スポーツマン」そう言って、鉄男はバイクで立ち去った(新装再編版6巻302~303ページ)。

これ以降、漫画に鉄男は登場しないので、これが二人の別れとなった。ごく軽く、短い別れのやり取りは、鉄男のやさしさだと思う。そして、このやさしさは、この句の持つやわらかな寂しさに似ている。

(岸田祐子)


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟


◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。



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