大空に伸び傾ける冬木かな
高浜虚子
常緑樹でも落葉樹でも、冬の樹木を総称して冬木と言うが、どちらかというと、葉を落として幹や枝々があらわになった落葉樹の方が冬木というにふさわしい。
大空に広がるように枝を張る冬木。
冬の青空を背景に立つ大樹が見えてくる。
客観写生を説いた虚子。
この句は一見すると、冬木のありようを素直に言葉で写し取った、客観写生のお手本のように思えるが、「傾ける」の一語には、ただの客観写生に終わらない奥行がある。
この句を見ていると、風景の奥に、人間の姿が見えてくる。もしかしたら虚子自身の姿がそこに投影されているのかもしれない。
客観の裏に隠された虚子の主観。
その奥義を虚子の言葉の斡旋の巧みさに見ることができるように思う。
(日下野由季)
【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。