ここも又好きな景色に秋の海 稲畑汀子【季語=秋の海(秋)】

ここも又好きな景色に秋の海

稲畑汀子いなはた・ていこ

2025年4月から連載スタートした
岸田祐子さんの「スラムダン句」も次回が最終回
最終回(8月31日)では、読者のみなさんから募集した
「あなたが見つけたSLAM DUN句」
について、岸田祐子さんが語ります。
この俳句は、「SLAM DUNK」の景として読める!
と思う句を、以下のフォーム(画像をクリック)から
コメントを添えて、ご投稿ください。
締切は【2025年8月25日(月)23時59分】です。
ご投稿お待ちしています🏀


 この連載期間中になんと、レイアップシュートができるようになった。さらにスリーポイントラインからのシュートが1回決まった。おめでとう、私! 他にも、スクリーンアウトが分かるようになったし、プッシングとスクリーンアウトの違いも理解できるようになった。こういうこと全部が楽しくて、嬉しい。いつだったか、私が、「バスケ、下手だし……」というようなことを言ったとき、「できなかったことが、できるようになることが楽しくないですか?」と言われてハッとした。これからは、できないことや下手なことに焦点を当てるのではなく、できるようになったことを喜び、できるようになる過程を楽しもう。バスケだけでなく、俳句も、他のことも全部。

 湘北対山王工業戦は、湘北の最後まで諦めない姿勢が、会場の雰囲気をも変えた。しかし、山王工業も百戦錬磨の試合運びで譲らず、1点を争う展開となる。花道は背中の激痛に耐え出場を続ける。両チームが死力を尽くした総力戦の結末は、79対78で、湘北の勝利。しかし、続く愛和学院との対戦に湘北は敗れ3回戦敗退となった。そして、インターハイを終えた部員たちは、それぞれの日常に戻る。

ここも又好きな景色に秋の海

 俳句では、8月は秋となる。立秋を過ぎてもまだまだ暑いし、私も俳句を始める前は、むしろ8月が夏本番だと思っていた。けれど、句歴を重ねるごとに暑さの中にある秋らしさをなんとなく感じるようになった。空の高い感じとか、夕方の風とか。この句は、海の近くに住んでいる人の視点だろう。人が集まって賑やかだった夏とは違って、秋の海は普段の姿だ。そこには、いつもの景色と淡々とした暮らしがある。夢のような夏の時間を思い出しつつ、しみじみと海を見ている。

 作者は、1回目にも取り上げたホトトギス前主宰の稲畑汀子いなはたていこ。横浜で生まれ、その後、芦屋で過ごした汀子にとって、海は暮らしの側にあった。海で泳いだものとは限らないが、〈長男と競ひ泳ぎて負くまじく〉や〈海見えて来れば泳いでみたき浜〉など、「泳ぎ」の句もたくさん作っている。

 インターハイを終えて3年生の赤木と木暮は、大学受験に向けて部活を引退した。同じく3年生の三井は、バスケ部に留まり、ウィンターカップを目指す。リョータは、新キャプテンに就任し、流川は全日本ジュニアに選抜された。晴子はマネージャーとしてバスケ部に入部し、背中の怪我のリハビリに励んでいる花道に手紙を書いた。その手紙を海辺で読む花道。鳶が舞う高い空、いつもの海は穏やかに輝いている(新装再編版20巻240〜253ページ)。

岸田祐子


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔13〕夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊
〔14〕明日のなきかに短夜を使ひけり 田畑美穂女
〔15〕ゆかた着のとけたる帯を持ちしまま 飯田蛇笏
〔16〕宿よりは遠くはゆかず夜の秋 高橋すゝむ
〔17〕夕立の真只中を走り抜け 高濱年尾
〔18〕苺まづ口にしショートケーキかな 高濱年尾
〔19〕汗の人ギユーツと眼つむりけり 京極杞陽
〔20〕冷汗もかき本当の汗もかく 後藤立夫


◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。



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