【秋の季語=三秋(8月〜10月)】秋の空
「秋晴」も「天高し」も近代以降の季語ですが、「秋の空」はもうすこし歴史が古く、歳時記の多くには、上島鬼貫(1661~1738)のあの句が載っているはず。
によつぽりと秋の空なる不尽の山 鬼貫
にょっぽり。たぶん、日本でいちばん富士山をかわいらしく表現しているのは、鬼貫のこの句なのではないでしょうか。そして、たぶんその次に有名な「秋空」の句といえば、こちら。
曳かれる牛が辻でずつと見廻した秋空だ 河東碧梧桐
【秋の空/秋空(上五)】
秋の空きのふや鶴を放ちたる 蕪村
秋の空露をためたる青さかな 正岡子規
秋空へ大きな硝子窓一つ 星野立子
秋空の奥に星辰またたきぬ 大西時夫
秋空がまだ濡れてゐる水彩画 鈴木鷹夫
秋空や展覧会のやうな雲 本井英
【秋の空/秋空(中七)】
によつぽりと秋の空なる不尽の山 上島鬼貫
雲一つ秋空深く上りゆく 松本たかし
雲を透く秋空見れば笛欲しや 藤田湘子
男獲るための秋空日暮れくる 飯田龍太
一遍の秋空に遭ふ日暮れかな 平井照敏
【秋の空/秋空(下五)】
誰が身にもひとつふたつは秋の空 上島鬼貫
目にて書く大いなる文字秋の空 高浜虚子
曳かれる牛が辻でずつと見廻した秋空だ 河東碧梧桐
唐崎の松は気ままに秋の空 大串章
弁当は食べてしまつた秋の空 麻里伊
はるかより山羊の匂ひや秋の空 広渡敬雄
研ぎあげて包丁黒し秋の空 長谷川櫂
ゴールデン街より電線の秋の空 坊城俊樹
蝶(パピヨン)の譜のちりぢりに秋の空 仙田洋子
流木に坐してしばらく秋の空 笹下蟷螂子
【秋天(上五)】
秋天に流れのおそき雲ばかり 星野高士
秋天に東京タワーといふ背骨 大高翔
秋天に雲一つなき仮病の日 澤田和弥
【秋天(中七)】
望楼に登る秋天拡げつつ 西村和子
本捨つる吾に秋天ありにけり 渡部州麻子
【秋天(下五)】
浮きをどる名古屋城かや秋天に 京極杞陽