【秋の季語】流星/流れ星 夜這星 星流る 星飛ぶ 星糞

【秋の季語=三秋(8〜10月)】流星/流れ星 夜這星 星流る 星飛ぶ 星糞  

【解説】歳時記を見ていると、「夜這星」だなんて、と思いますよね。これは、枕草子のなかに「星はすばる、ひごぼし、ゆふづつ、よばひぼし、すこしをかし」とあることで知られている言葉なんです。

一般には(つまり俳句以外では)「婚星」という漢字を当てることもありますが、要は、恋人のもとにこっそり通うように、スピーディな動きを喩えたもの。「星の嫁入り」なんていう言葉もありますし、富山あたりでは逆に「縁切星」とも呼ばれていたようです。

とはいえ、流星は一年を通じて見ることができます。とくに、1月の「しぶんぎ座流星群」、8月の「ペルセウス座流星群」、そして12月の「ふたご座流星群」の3つが「三大流星群」と呼ばれています。ただし、なかでも見やすいのが、8月の「ペルセウス座流星群」。そして俳句では、「七夕」「星月夜」などの季語ともあいまって、秋の季語として扱われています。

日本では、流れ星が落ちきるまでのあいだに3回願いごとをすれば、願いが叶うといわれていますが、そういうポジティブな流星観は、歴史的に見れば少数派。たとえば、アンデルセンの童話「マッチ売りの少女」では、マッチを磨ってごちそうの夢を一通り見た少女が流れ星を見て、「流れ星は誰かの命が消えようとしている象徴なのだ」と教えてくれた祖母の言葉を思い出すシーンがあります。切ないよね。

日本語の歴史をたどっていくと、もともと8世紀ごろに「星流れる」といっていたものが、9世紀に「流星」となり、そのあとに「光りもの」や「天変」といった表現に変わっていくなど、なかなか落ち着きませんでした。

そういえば近年、俳句の世界では「星糞」という言葉がすこし話題になりました。「運河」の谷口智行さんが『星糞』(2019年)という句集を出されて、〈ふんだんに星糞浴びて秋津島〉という句を残されています。正木ゆう子さんも『猫のためいき鵜の寝言 十七音の内と外』(2018年)のなかの「星糞峠」と題された章で、石器時代の黒曜石の鏃にふれながら、〈地に星糞天に星糞去年今年〉という句を残されています。いま、ひそかに「星糞ブーム」が来ています。

この「星糞」、もともとは青森や佐渡で使われていた流星の異名で、沖縄にも「ホシヌクス」(星の糞)という呼び方がありました。正木さんが話題にしている星糞峠は、長野県小県郡にある「黒曜石のふるさと」。日本でもめずらしい黒曜石の鉱山は、星のカケラが降り積もってできたといわれ、星糞峠と呼ばれてきたのだそうです。

つまり、流星という主題は、実をいうと、夜這い(セックス)と糞(排泄)が出会う瞬間なのであります。星々のロマンティックなイメージを粉砕するかのごとく、生々しく、生理的で肉体的で体液的な何かが、ここにはあります。

歳時記にはなかなか載っていないかもしれませんが、みなさんもぜひ「星糞」で一句、つくってみてはいかがでしょうか?

【関連季語】七夕、星月夜、銀河、月、名月、宵闇など。


【流星】
流星のきらめき落つる地獄谷 水原秋櫻子
流星のそこからそこへ楽しきかな 永田耕衣
盃に映し流星飲むべしや 山口青邨
わがにぎりこぶしは流星にはあらず 阿部青鞋
流星や遠き波郷のふところ手 加藤秋邨
流星のあと軋みあふ幾星座 福永耕二
流星を見しより私だけの部屋 山田みづえ
流星の使ひきれざる空の丈 鷹羽狩行
流星に秘めごとならぬ願ひごと 稲畑汀子
流星や孔子失意の琴一つ 有馬朗人
流星は旅に見るべし旅に出づ  大串章
流星やいのちはいのち生みつづけ 矢島渚男
流星を北斗の柄杓もて掬ふ 武田花果
流星を咥えしたたる秋田犬 鳴戸奈菜
流星も入れてドロップ缶に蓋 今井聖
山登るほど流星の音すなり 対馬康子
ドレスごと抱かれた 流星の音きいた 松本恭子
流星に二度と戻れぬ空のあり 櫂未知子
流星やゲーム画面に地平線 金子敦
聞き役に飽きて流星欲るピエロ 仙田洋子
流星の軌跡湛えている鎖骨 千倉由穂
流星がガススタンドの灯へ曲がる 福田若之

【流れ星】
大空の青艶(えん)にして流れ星 高濱虚子
流れ星悲しと言ひし女かな 高濱虚子
流れ星わかれて立山と後立山 阿波野青畝
青年に長く短く星飛ぶ空 西東三鬼
銀座ママ出勤流れ星流れ星 鈴木真砂女
さそり座の尾の一げきに流れ星 村上克美
流れ星岸辺の牛を思慕しつゝ 攝津幸彦
流れ星我より我の脱け落つる 多田智満子
来るこない来る三つ目の流れ星 鷹羽狩行
そのあとはかぞへるを止め流れ星 鷹羽狩行
流れ星恋は瞬時の愚なりけり 富士眞奈美
恋人は見ざりしといふ流れ星 遠藤若狭男
流れ星ヨットパーカーあふられて 対中いずみ
流れ星贈らんと連れ出しにけり 望月周
流れ星まぶたを閉ぢて歯を磨く 西原天気
ポストまで歩いてゆけば流れ星 太田うさぎ
人形のまつげのかたさ流れ星 神野紗希

【夜這星】
夜這星峡にをろちの深ねむり 角川源義 

【星流る】
星一つ命燃えつつ流れけり  高濱虚子
死がちかし星をくぐりて星流る 山口誓子
形正しき星座より星流る 山口誓子
死がちかし星をくぐりて星流る 山口誓子
星流る疑ふこともなく生きて 山口青邨
参考に一つの星が流れけり 阿部青鞋
コツプもち離れへゆくに星流れ 田中裕明
雲白く国かがやきて林檎狩る 対馬康子

【星飛ぶ】
芦間より星飛ぶ沢の見ゆるなり 松藤夏山
昨日より生甲斐なくし星飛ばす 田川飛旅子
星飛びしことを言はずに子守唄 千原草之
星飛ぶ野思はず掴む己が袖 長谷川秋子
星飛んで無音の白き渚あり  菅原鬨也
ひゆんひゆんと鞭の音して星飛べり 小林貴子

【星糞】
ふんだんに星糞浴びて秋津島 谷口智行

【その他】
流れ星大きく縦に狩の宿 岸本尚毅


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