【春の季語=三春(2月〜4月)】春雨
「立春」をすぎてから降る雨のことだが、日常語である「春の雨」に比べると、用語として概念性が高く、イメージが先行する。
歳時記などにも「古くからしっとりとした趣のあるものとして詠まれてきた」「こまやかに降りつづく雨」などとある。
春雨や小磯の小貝ぬるるほど 蕪村
などは古典的な作品として有名な句のひとつ。この句をして絶望詩人こと萩原朔太郎は、「終日霏々として降り続いている春雨の中で、女の白い爪のように、仄ほのかに濡れて光っている磯辺の小貝が、悩ましくも印象強く感じられる」と書いている(「郷愁の詩人 与謝蕪村」)。
【春雨(上五)】
春雨やいかに野槌があくびごゑ 松磯
春雨のわれまぼろしに近き身ぞ 正岡子規
はるさめに昼の廓を通りけり 永井荷風
春雨や物乞ひどもと海を見る 横光利一
春雨や人の言葉に嘘多き 吉岡実
春雨の伝はつてゆく野面積 太田土男
春雨や待ち人をなお待たんとす 清水凡亭
春雨の希釈してゆく昨日かな 櫂未知子
春雨てふ銀の鎖をくぐりけり 矢野玲奈
【春雨(中七)】
斯く翳す春雨傘か昔人 高濱虚子
ひらきたる春雨傘を右肩に 星野立子
分乘に見る春雨の右左 中原道夫
【春雨(下五)】
【自由律】
こんやはこゝで雨がふる春雨(京都) 種田山頭火
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】