はやり風邪下着上着と骨で立つ
村井和一(「もてなし」平成17年)
新型コロナウイルス対策ダッシュボードによると、今日(12月2日早朝)の時点で大阪の病床使用率は143%を越えて深刻な状況にある。ちなみに東京は66.6%。こういう数字は、あくまで参考値で、これを元にどうこう言うのは危なっかしいが、望むと望まないにかかわらずわれわれが危ない橋を渡ってることに違いは無い。
さて掲句。そんなコロナ騒ぎのことなどまったく関係の無かった時代に詠まれているのだが、肉を切らせて骨を断つ、風な言い回しでありながら、なんだかおかしみがただよう。はやり風邪に冒された自分の身体感覚を、もはや肉はあてにならず、ただ服を着て骨だけでどうにか立っている、と詠むのである。武道には、骨法なるものがある。身体の使い方を究極突き詰めると、そういうものが顔を出す。なんだか達人が風邪に立ち向かうようでいて、なにかがズレている。そもそも、なんでそこまで無理をして立たなければならないのか。一見ふざけているようでいて、この句の問いかけるものは存外に深い奥があるのではないのか。句集を読むと、抜け感のある句がすくなくない作家である。さて、これは俳句なのだろうかと一瞬とまどう句や、笑ってしまう句、鋭い切れ味のある句が乱雑にならんでいる。大畑等の後書によると、作者は「雑俳」を核に据えて句を詠むことを信条としていたのだという。子規やその後の俳人たちも外さなかった蕉風以来の流れを敢えて外す、という意味で、アウトロー俳句とは、このようなものをいうのかもしれない。
(橋本直)
🍀 🍀 🍀 季語「風邪」については、「セポクリ歳時記」もご覧ください。
【執筆者プロフィール】
橋本直(はしもと・すなお)
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」(邑久光明園)俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』(2011年)、『鬼』(2016年)いずれも私家版。第一句集『符籙』(左右社、2020年)。共著『諸注評釈 新芭蕉俳句大成』(明治書院、2014年)、『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(ふらんす堂、2018年)他。