明史は、舞鶴という地域に根差した作家であるため、海を詠んだ句が多い。
舳先みな沖向く船の三日かな
常節を噛み初任地の磯恋へり
月出づと舟屋にとどく望の潮
舟宿のうらに猿出づ枇杷の花
境涯や生活が見える詠み方は、桂郎の影響を思わせつつも独特の感性がある。
初鏡手話試みて教師たり
重陽やベッドの父の口達者
白靴の長襦彦や耳順過ぎ
加減よき結び昆布や夫婦箸
桂郎に一盞献ず衣被
珍しい季語も説得力のある描写を用い、歳時記にも採用された。
怒鳴り声野にひろごれり木呪
僧兵の裔は美男よ竹伐会
オロシアに政変なんばんぎせる咲く
人間味溢れる詠みぶりは、今も色褪せることがない。
酸素吸ふ人日の月まんまるく
蒟蒻の器量よろしき針供養
饅頭に巣籠る鶴や四月馬鹿
八朔や仏壇の中こゑのして
十月の花嫁少し濡れて着く
白菜は藁の鉢巻野菜舟
鋤焼や和気藹藹の喧嘩箸
飄々とした人柄を思わせる作風は、「手前の面(つら)のある句をつくれ」という桂郎の言葉が作句の根底に沁みついているからであろう。
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