いじめると陽炎となる妹よ 仁平勝【季語=陽炎(春)】

仁平勝の句は、心の真ん中を突いてくるような句が多い。

  水打ってたちまち乾く過疎の村

  寒卵男ばかりが立志伝

  道化師に晩年長し百日紅

  山眠るいたるところに忍び釘

 懐かしい情景も現代的な情景も俳味がある。

  憂鬱の樽を積んでは泣き上戸

  負け知らずメンコの東千代之介

  引越のサカイが運ぶ春の家具

 ざっくりと、がさっと物事の神髄を詠む。

  冬帽を脱いで背後に隙があり

  綿虫くらゐは老眼でも見える

  おほまかな鉛筆の地図あたたかし

  冬木みなつまらなさうにしてをりぬ

 肉親を詠んだ句は、悲しみを伴う。仲の良かった弟を失ったことが知られている。

  卯の花腐し父の万年筆太し

  姉の忌の天地をつなぐ烏瓜

  暑がりの弟の墓洗ひけり

  初夢の弟生きてゐて威張る

 70歳を過ぎてもイケメン。どんな恋をしてきたのかは分からない。

  はいてもはいても女人禁制の庭椿

  君がさす日傘の前を耕耘機

  それとなく事を済ませて鳥の恋

  近隣にはばかりもなく猫の恋

写生の句も感覚的な句も詠み、冴えた評論も書ける俳壇のオールラウンダーである。

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