虫の夜を眠る乳房を手ぐさにし 山口超心鬼【季語=虫の夜(秋)】

虫の夜を眠る乳房を手ぐさにし

山口超心鬼

 作者は、大正14年大阪府生まれ。昭和31年、31歳の頃、「天狼」入会、山口誓子に師事。昭和45年、「天狼」コロナ賞受賞。昭和49年、「天狼」同人。平成6年、70歳の頃、「天狼」終刊に伴い、「鉾」創刊主宰。平成22年、85歳にて逝去。句集に『変貌』 『遠天』『誓子星』『過客』『暫』がある。

 職業は医師で、内科が専門。俳号の「超心鬼(ちょうしんき)」には、「聴診器」が掛けられている。医師としては、生と死と向き合う日々を詠んだ。

  死者を診し吾に蹤きくる虎落笛

  流感の熱き乳房に乳溜る

 創刊結社名の「鉾」は、京都の祇園祭の鉾のことである。鉾を詠んだ句には臨場感がある。

  鉾揺れて祇園囃子の揺れて過ぐ

  立つ鉾の満を持したる大車輪

  押し押され鉾の提灯見えて来し

 戦後の現代俳句を牽引した山口誓子の弟子として生涯、誓子を慕い続けた。

  春星のいづれが誓子星ならむ

  誓子亡き六甲山より春疾風

  断崖に立ちて沖見る誓子の忌

  誓子忌の伊勢路に遇ひし初燕

 超心鬼は、和歌山県に三つの句碑を残した。平成11年に紀州由良興国寺、平成13年に紀州有田市善福寺、平成19年に紀州串本町潮岬(望楼の芝)に建立している。善福寺と潮岬には、先に山口誓子句碑があったため、師弟句碑として建てた。紀州は、師の思い出とともに創作意欲が刺激される場所であったのであろう。

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