猿のように抱かれ干しいちじくを欲る 金原まさ子【季語=いちじく(秋)】

猿のように抱かれ干しいちじくを欲る

金原まさ子
(『カルナヴァル』)

 金原まさ子が注目を浴びるようになったのは、99歳の時。句集『遊戯(ゆげ)の家』を出版した頃からであったと記憶している。あそび心の溢れた斬新な句集は「99歳の不良少女」というキャッチコピーとともに話題となった。

 作者は、明治44年東京生まれ。三輪田高等女学校を卒業後、結婚し専業主婦となる。戦時下で書いた育児日記は、NHK『新・ドキュメント太平洋戦争』シリーズで取り上げられた。俳句を始めたのは戦後の49歳の時。昭和45年、59歳の時に桂信子主宰「草苑」の創刊同人となる。昭和59年、73歳の時、第一句集『冬の花』出版。平成11年、88歳の時 第二句集『弾語り』出版。平成13年、90歳の時、今井聖主宰「街」同人。平成19年、96歳の時、鳴戸奈菜代表の「らん」入会(筆名・金子彩)。平成22年、99歳の時、第三句集『遊戯の家』出版。翌年、「金原まさ子百歳からのブログ」を開始。平成25年、102歳の時、第四句集『カルナヴァル』、エッセイ集『あら、もう102歳』を出版。同年、敬老の日にテレビ朝日「徹子の部屋」にゲスト出演。翌年、句集『カルナヴァル』で第69回現代俳句協会賞特別賞を受賞。平成29年、106歳没。ブログは、亡くなる2か月前まで更新し続けた。

 第一句集『冬の花』は、桂信子の影響を受けた抒情的な句とともに、独特の感性が生み出した表現が印象に残る。

  茸狩へ畳のくらさ踏み出でて

  火あぶりの火の匂いして盆踊り

  藁いろの月射している花西瓜

  おもしろの世や菜を漬けて小半日

  網膜の赤ながれだす夕花野

  鯉の麩を食べて媼に日の永き

 第二句集『弾語り』になると、すこし怪しげな世界が垣間見えるようになる。昭和58年公開の映画『戦場のメリークリスマス』を観て、男性同士の耽美的世界にめざめたというが、そんな雰囲気を感じさせる。

  春愁を辿りてゆけば二階かな

  野茨を自己戴冠す誕生日

  あけび食ふ若しやもしやと生きて来て

  白い粉匿す白粉花の種の中

  針金の輪つかの上の菊の首

  錠剤は青が効きさう風花す

関連記事