ソフトクリーム一緒に死んでくれますやうに 垂水文弥【季語=ソフトクリーム(夏)】

ソフトクリーム一緒に死んでくれますやうに

垂水文弥
はしづめきょらい

)

以前にnoteに掲載されていた20句を気に入って印刷していた。

  鶴に恋ありまほろばとちひさくいふ  
    垂水文弥「惑星と風花」20句(以下の句も同じ)

連作の1句目としてとても惹かれた。
鶴に恋があると気づき、まほろばと小さく言ったのは誰なのか謎だが、物語の冒頭のようで引き込まれた。
この句がとても好きで、まほろばを入れた句を作り、句会に出したことがあるが「なぜ急にまほろばが出てきたのか分からない」と言われ、無点だった。影響を受けて早速作ったのだからそうなるのだろう。まほろばを上手く機能させるのは難しいと体験した。
どことなく古を思わせる20句なのだが

  吹雪野をからくれなゐのヘッドホン

  死者とゆくマクドナルドへ夕立くる

のように「ヘッドホン」「マクドナルド」という現代的なカタカナ言葉を取り入れることで現実と幻を行き来しつつ、繊細すぎない世界観を構築している。

  ソフトクリーム一緒に死んでくれますやうに

彼の句には死や戦争など孤独を感じる語句も多いが、不思議と暗すぎない。この句はソフトクリームが効いている。濃厚なソフトクリームでもコンビニのチープなものでもどちらも似つかわしく、なぜか明るさすら感じる。生きることに絶望してるわけでもなく、死に希望を見出してるわけでもない。美味しいソフトクリームを食べ終わる頃には満足していそう。

繊細すぎないのは、季語ソフトクリームというカタカナ言葉の使い方の上手さにあるのではないか。

この「惑星と風花」は第38回東門賞の受賞作であり、最近では「鬼の子にんげん」20句で第9回円錐新鋭俳句賞白泉賞を受賞している。noteには過去の角川俳句賞に応募した作品も掲載されており、ここでは割愛するが、数カ月単位で進化しているようだ。
とりあえず、もう一度まほろばを使ったお気に入りの一句を作りたい。

有瀬こうこ


【執筆者プロフィール】
有瀬こうこ(ありせ・こうこ)
2016年12月作句開始。
いぶき俳句会所属。豆の木参加。
2023年第13回百年俳句賞最優秀賞。
2024年第30回豆の木賞。
2025年第8回俳句四季新人賞奨励賞。
2024年「えぬとこうこ」発売。
2025年末「えぬとこうこ2」発売予定。



【2025年5月のハイクノミカタ】
〔5月1日〕天国は歴史ある国しやぼんだま 島田道峻
〔5月2日〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔5月3日〕ふらここの音の錆びつく夕まぐれ 倉持梨恵
〔5月4日〕春の山からしあわせと今何か言った様だ 平田修
〔5月5日〕いじめると陽炎となる妹よ 仁平勝
〔5月6日〕薄つぺらい虹だ子供をさらふには 土井探花
〔5月7日〕日本の苺ショートを恋しかる 長嶋有
〔5月8日〕おやすみ
〔5月9日〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔5月10日〕熔岩の大きく割れて草涼し 中村雅樹
〔5月11日〕逃げの悲しみおぼえ梅くもらせる 平田修
〔5月12日〕死がふたりを分かつまで剝くレタスかな 西原天気
〔5月13日〕姥捨つるたびに螢の指得るも 田中目八
〔5月14日〕青梅の最も青き時の旅 細見綾子
〔5月15日〕萬緑や死は一弾を以て足る 上田五千石
〔5月16日〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔5月17日〕飛び来たり翅をたゝめば紅娘 車谷長吉
〔5月18日〕夏の月あの貧乏人どうしてるかな 平田修
〔5月19日〕土星の輪涼しく見えて婚約す 堀口星眠
〔5月20日〕汗疹とは治せる病平城京 井口可奈
〔5月21日〕帰省せりシチューで米を食ふ家に 山本たくみ
〔5月22日〕胸指して此処と言ひけり青嵐 藤井あかり
〔5月23日〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔5月24日〕仔馬にも少し荷をつけ時鳥 橋本鶏二
〔5月25日〕海豚の子上陸すな〜パンツないぞ 小林健一郎
〔5月26日〕籐椅子飴色何々婚に関係なし 鈴木榮子
〔5月27日〕ソフトクリーム一緒に死んでくれますやうに 垂水文弥

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