アカコアオコクロコ共通海鼠語圏  佐山哲郎【季語=海鼠(冬)】


アカコアオコクロコ共通海鼠語圏 

佐山哲郎


「圏」という概念はやっかいで、豊かな多様性を観察するのに役立つこともあれば、その反対に怪しげな宿命論的同一性を生み出すこともある。とくに言語について語る場合はその傾向が強く、植民地政策の生き霊を召喚してしまうことも少なくない。

アカコアオコクロコ共通海鼠語圏   佐山哲郎

アカコ、アオコ、クロコの三種は学名上ではすべて「マナマコ」である。しかし近年行われたDNA鑑定によれば、外海の岩場に生息するアカ型と、内湾の砂泥底に生息するアオ型やクロ型は別種であることがわかっているらしい。掲句はハナモゲラ語を彷彿とさせる〈アカコアオコクロコ〉の字面がとんでもなくキュート。振り返ればわたしが幼稚園に上がる前、最初におぼえた外国語はハナモゲラ語だった。ほぼ毎日「ひらけ!ポンキッキ」で「ソバヤ」が流れていたのだ。そんなこともあってわたしは掲句に、言葉の戯れのもたらす幸福感のみならず、ゆりかごに揺られているような安心感をもおぼえる。

〈アカコアオ/コクロコ/ナマコゴ〉の動詞活用っぽい言葉遊び。中八のリズム。下五の字余り。みっちり具のつまった折り箱をいただくときのような充実が、視覚的にも聴覚的にも味わえて楽しい。意味の因習からたんに逃れているのではなく、その因習を逆手にとって華やかなエンタメにしてみせたところがこの充実の秘密だろう。

小津夜景


🍀 🍀 🍀 季語「海鼠」については、「セポクリ歳時記」もご覧ください。


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【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記


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