牛日や駅弁を買いディスク買い
木村美智子
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
1月1日は鶏日、2日は狗日…とあって本日5日が牛日。昔の中国の習慣に由来する呼び方らしいが、7日の人日以外はほぼ絶滅季語だ。そのなかで、唯一「牛日」という季語で見つかったのが掲句。当欄としては「五日」の句でもよかったのだが、今年が丑年ということで牛日の句にした。
牛日や駅弁を買いディスク買い
掲句は仕事始めの翌日、本格的な業務開始の景か。新年早々の出張。列車に乗る前に、駅弁とディスクを買ったというのであろう。駅弁は牛飯だったのかもしれない。
ディスクはおそらくフロッピーだろう。フロッピーディスクは、今からみれば古くさい道具だし、語感もなんだかフラッパーみたいでふわふわしているが、ご承知のとおり登場したころは時代の最先端の象徴だった。初めて手にしたフロッピーディスクは、会社に導入されたワープロ専用機に使う8インチのものだったと記憶している。かな漢字変換のたびに辞書の入っているフロッピーディスクを読みにいき、ドコドコという音がしてやっと漢字に変わるという代物だったのだが、その機械音さえも新しい時代の息吹のように感じられたものだ。
掲句の良さは、「牛日」という古めかしい季語と「駅弁」という昔も今も変わらないもの、そして「ディスク」という最新のものという取り合わせにある。そしてそれをリズムよく並べたことで、新しい年を迎えた躍動感と期待感が醸し出されている。
「角川俳句大歳時記」所収。
(鈴木牛後)
【執筆者プロフィール】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)
1961年北海道生まれ、北海道在住。「俳句集団【itak】」幹事。「藍生」「雪華」所属。第64回角川俳句賞受賞。句集『根雪と記す』(マルコボ.コム、2012年)、『暖色』(マルコボ.コム、2014年)、『にれかめる』(角川書店、2019年)。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】