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ガンダムの並ぶ夜業の机かな 矢野玲奈【季語=夜業(秋)】

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ガンダムの並ぶ夜業の机かな

矢野玲奈


句会では、名前を伏せて投句と選句を行うけれど、この手の句は句会の前後で評価ががらりと変わるように思う。

「ガンダム」というのは、基本的には男性ファンが多いアニメ作品なので、作者が男性か女性かで、意味合いが変わってくるからである。もし、作者がアムロやシャアを、あるいはセイラやカミーユを愛する「男性」であれば単なる駄句となるが、しかし「女性」であれば、ガンダムに対する批評的な距離感が生まれる。いっとき流行った言い回しを借りれば、「ベタ」ではなく「ネタ」だ、ということである。

「机」があるから事務職であるだろうけど、それが同僚の男性の机なら「いい大人が何やってんだ」という冷ややかな目線が思われるし、もしも自分の机なら、あくまで「なりゆきで」置かれているにすぎない(と思われる)。つまりこの句の面白さは、句それ自体にあるというよりは、句の内容から逆算して、「ガンダムから最も遠いところにいる(女性の)作者像」を想像することによって、いっそう増すということになる。

この場合、俳句の面白さは、対象と作者との距離感にあるのであって、俳句の言葉そのものにあるのではない。子規の「鶏頭」の句もそうだと思うが、句のなかに「人間」が描きこまれている場合には、その人の生きている時代や環境、職業や属性などもまた「テクスト」の一部を織り成している。

「ガンダムの並ぶ夜業の机」というのは、ざっくりといえば、「一般職」ではなく「総合職」として遅くまで働く女性の姿であり、そこにはまだ男性優位の労働環境で「対等」に働こうとする、(男女雇用機会均等法以後の日本社会に生きる)女性の意志が暗示されている。

そう思えば、この「ガンダム=モビルスーツ」は、単なるオブジェでもなければ、もとより少年の愛玩物などでもない。

まさに、作者自身が「モビルスーツ」を着なければ、働くことができない状況が現に存在している以上、機動戦士は作者自身でもあるのだ。と思うと、この句からは作者の不満や静かな怒りが、込み上げてくるようにも思える。『森を離れて』(2015)より。(堀切克洋)

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