ハイクノミカタ

サマーセーター前後不明を着こなしぬ 宇多喜代子【季語=サマーセーター(夏)】


サマーセーター前後不明を着こなしぬ

宇多喜代子 


サマーセーターは素っ気ない。

とくに丸首の、ゆったりした素材のセーターならば、よくよく見て着たのに、前後が逆だったりすることがあるだろう。

まあ実際には、着てみて前後逆であることがわかれば、ぐるりと回して正しい方向で着るのだろうけれど着てみて、やっぱり確信がもてないというのも何だかおかしいし、それでいて内心まあいいやと思っている、そんな女性の心持ちにも憧れてしまう。

「着こなしぬ」と文語調で収めたことよって、ますます馬鹿馬鹿しく感じられるのも、ちょっとしたポイント。

こういう一句と出会うと、自分も「サマーセーター」を季語として使ってみたくなってしまう。角川「俳句」2020年8月号より。(堀切克洋)



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 髪で捲く鏡や冬の谷底に 飯島晴子【季語=冬(冬)】
  2. 鳥の恋いま白髪となる途中 鳥居真里子【季語=鳥の恋(春)】
  3. 風邪ごもりかくし置きたる写真見る     安田蚊杖【季語=風邪籠…
  4. 未婚一生洗ひし足袋の合掌す 寺田京子【季語=足袋(冬)】
  5. 逢へば短日人しれず得ししづけさも 野澤節子【季語=短日(冬)】
  6. 同じ事を二本のレール思はざる 阿部青鞋
  7. 誰かまた銀河に溺るる一悲鳴 河原枇杷男【季語=銀河(秋)】
  8. 縄跳をもつて大縄跳へ入る 小鳥遊五月【季語=縄跳(冬)】

おすすめ記事

  1. 美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目【季語=蝶(春)】 
  2. 【夏の季語】虹
  3. 未婚一生洗ひし足袋の合掌す 寺田京子【季語=足袋(冬)】
  4. 霧晴れてときどき雲を見る読書 田島健一【季語=霧(秋)】
  5. 浅草をはづれはづれず酉の市 松岡ひでたか【季語=酉の市(冬)】
  6. いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝【季語=水田(夏)】
  7. 春の雪指の炎ゆるを誰に告げむ 河野多希女【季語=春の雪(春)】
  8. 「野崎海芋のたべる歳時記」わが家のオムライス
  9. 【冬の季語】古暦
  10. 「野崎海芋のたべる歳時記」ゼブラのガトー

Pickup記事

  1. 【秋の季語】檸檬
  2. 【第4回】ラジオ・ポクリット(ゲスト: 大西朋さん・白井飛露さん)
  3. 「パリ子育て俳句さんぽ」【9月18日配信分】
  4. 時雨るるや新幹線の長きかほ 津川絵理子【季語=時雨(冬)】
  5. 神保町に銀漢亭があったころ【第67回】鷲巣正徳
  6. 片手明るし手袋をまた失くし 相子智恵【季語=手袋(冬)】
  7. 神保町に銀漢亭があったころ【第108回】麻里伊
  8. 「パリ子育て俳句さんぽ」【1月15日配信分】
  9. 銀座明るし針の踵で歩かねば 八木三日女
  10. 【連載】歳時記のトリセツ(11)/佐藤りえさん
PAGE TOP