変身のさなかの蝶の目のかわき宮崎大地【季語＝蝶（春）】

ハイクノミカタ

変身のさなかの蝶の目のかわき　宮崎大地【季語＝蝶（春）】

2023/3/23
ハイクノミカタ, 橋本直
『俳句研究』, かわき, さなか, の, 五十句競作, 変身, 宮崎大地, 宮崎星輝, 目, 蝶, 高柳重信

変身のさなかの蝶の目のかわき

宮崎大地
（「宮崎大地全句集」風の花冠文庫）

高柳重信が編集長を務めた『俳句研究』で、新人発掘のために企画されたのがよく知られている「五十句競作」。で、その企画を成功・持続させるために第一回では、あらかじめ第一席の入選に推すべき者を用意していた、という後日談を重信自身が『俳句研究』に書いている。自分がいつ読んだのかすっかり記憶から抜けているが、そういえば高柳重信のことを集中的に読んでいた時期にそんな記事を見て驚いた、という記憶はあって、自分の目的は他にあったのでとくにそこに着目したりはしなかったのだけれど、その時の高柳に白羽の矢を立てられた若き俊秀が、宮崎大地という人物だったということを引用書で初めて知った。巻末の外山一機による宮崎大地論「たった一人の大地で－宮崎大地論－」によれば、その宮崎は、自選にこだわり、高柳言うところの「用意」にまつわる句選について断固として他者の介入を拒否し、それを「選句の暴力」とまで言い、ついには筆を折り、その後の所在が不明ということになってしまったのだという。したがって、その作家活動は17歳から24歳までのわずか７年となってしまった。　外山の持つ問題意識はぜひ同論をお読みいただきたいけれども、この「選句の暴力」ということについては、個人的考えからも今の俳句の状況からも軽視できない問題だと思っている。

さて掲句は、宮崎大地が宮崎大地を名乗る前の宮崎星輝時代の作品。蝶がメタモルフォーゼをしている最中、目が渇いているという発想そのものがユニークだが、科学的事実よりも、おそらくはそのありようが自身の現し身としてのそれの言語化であるのだろう。「かわき」には、命をかけて劇的に成長するさなかにありながら、なぜかクール（あるいはシニカル）にそんな自己を見ている「我」の存在を感じてしまう。そういう「我」であったからこそ「選句の暴力」という言葉が出てくるのではないか、というのは、深読みに過ぎるのかもしれないけれども。

（橋本直）

【執筆者プロフィール】
橋本直（はしもと・すなお）
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」（邑久光明園）俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』（2011年）、『鬼』（2016年）いずれも私家版。第一句集『符籙』（左右社、2020年）。共著『諸注評釈新芭蕉俳句大成』（明治書院、2014年）、『新興俳句アンソロジー何が新しかったのか』（ふらんす堂、2018年）他。

【橋本直さんの第一句集『符籙』はこちら】