二十世紀なり列国に御慶申す也尾崎紅葉【季語＝御慶（新年）】

ハイクノミカタ

二十世紀なり列国に御慶申す也　尾崎紅葉【季語＝御慶（新年）】

2023/1/12
ハイクノミカタ, 橋本直
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二十世紀なり列国に御慶申す也

尾崎紅葉
（高山れおな『尾崎紅葉の百句』）

紅葉尾崎徳太郎は慶応三年十二月の生まれ。新暦で言えば１８６８年１月だが、慶応三年で括れば漱石（一月）や露伴（七月）、子規（九月）や南方熊楠（四月）と同じ年の生まれということになる。こと文才ということについては、子規は紅葉の足元にも及ばないかもしれない。独自に人々に受け容れられやすい文体と内容をもった小説を生みだし、そっちのほうが本業になって大学在学中に新聞作家として読売に入り、子規より数年早く東大を中退している。子規が小説家になろうと奮闘努力し挫折していた頃にはもう人気作家であったわけで、紅葉は才人の中の才人といっていいのだけれど、書きすぎて胃を病み、子規より一年と一ヶ月ほど遅れて死んだ。紅葉は『金色夜叉』を代表作とする小説家として特に名が知られるが、要は「文人」の器量のある人であり、俳句もよく詠んだ。俳句史的には、角田竹冷や大野洒竹らと起こした「秋声会」で、子規の日本派とは一味違う「新派」を形成したことでも知られる。

さて、掲句は１９０１年の新年詠。特に句意の説明は必要はないだろう。著者の高山は「日清戦争に勝利し、列強の一画を占めつつある新興帝国の国民としての意識があきらか」と書いている。今から見ればいささか素朴に過ぎるこの国家と一国民の一体感は、上記のような同世代の作家達にも共有されていて、子規も日清戦争のころ日本代表のような自意識を表明した句を詠んでいるのだが、子規とは違う紅葉の創作者としての気質が、「列国に御慶申す」という部分によくあらわれているように思う。紅葉の俳風の、「趣味」で括るとこぼれてしまうものをなんといったものやら、やはり小説を主戦場とする人のもつ外連味とでもいうか、などと思いつつ、紅葉句にあまり好感が持てなかった自分はそのままほったらかしてしまったのだけれど、高山は引用書末の解説で、紅葉の俳句の核心をさすキーワードを本人の作品から「きほひ」だと指摘している。そのあたりも含めて、さらにつっこんだ内容の論の用意があるようなので、楽しみに待ちたい。

（橋本直）

【執筆者プロフィール】
橋本直（はしもと・すなお）
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」（邑久光明園）俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』（2011年）、『鬼』（2016年）いずれも私家版。第一句集『符籙』（左右社、2020年）。共著『諸注評釈新芭蕉俳句大成』（明治書院、2014年）、『新興俳句アンソロジー何が新しかったのか』（ふらんす堂、2018年）他。

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