ハイクノミカタ

曳けとこそ綱一本の迎鐘 井上弘美【季語=迎鐘(秋)】


曳けとこそ綱一本の迎鐘  

井上弘美 


季語は「迎鐘」。精霊会に際して、死者の霊を冥土から迎えるためにつき鳴らす鐘である。8月7日から10日まで(陰暦では7月9日、10日にやっていた)、六道参りに六道珍皇寺でつく鐘が特に有名なため、俳句では「六道参(ろくどうまいり)」の副季語とされている。「お精霊(しょらい)さん」を迎えるために引くのは「綱一本」。あたかも御先祖のほうが「早く曳け」と言っているように感じられるところが面白味だ。技巧としては「曳けとこそ」という言い差しの表現が、かえって感情的な強度を増している。これが「曳けといふ」では、少し野暮ったくなってしまう。やはり、「こそ」がいいのだ。ちなみに、600年以上の歴史ある行事だが、今年は新型コロナウイルスのためにオンラインで開催中。なお、作者には『季語になった京都千年の歳事』(2017)の著書もあり、美しい写真を配した京の文化ガイドとしても必携である。(堀切克洋)



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 卒業の歌コピー機を掠めたる 宮本佳世乃【季語=卒業(春)】
  2. 旗のごとなびく冬日をふと見たり 高浜虚子【季語=冬日(冬)】
  3. 頭を垂れて汗の男ら堂に満つ 高山れおな【季語=汗(夏)】
  4. 皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人【季語=バナナ(夏)】
  5. 愛情のレモンをしぼる砂糖水 瀧春一【季語=砂糖水(夏)】
  6. 水鳥の和音に還る手毬唄 吉村毬子
  7. 泥に降る雪うつくしや泥になる 小川軽舟【季語=雪(冬)】
  8. 百合のある方と狐のゐる方と 小山玄紀

おすすめ記事

  1. 【連載】新しい短歌をさがして【11】服部崇
  2. 【冬の季語】枯野
  3. 【冬の季語】着ぶくれ
  4. 【冬の季語】歳晩
  5. 猿負けて蟹勝つ話亀鳴きぬ 雪我狂流【季語=亀鳴く(春)】
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第82回】歌代美遥
  7. 【冬の季語】水仙
  8. 「パリ子育て俳句さんぽ」【9月24日配信分】
  9. 神保町に銀漢亭があったころ【第43回】浅川芳直
  10. 湖の水かたふけて田植かな 高井几董【季語=田植(夏)】

Pickup記事

  1. 年迎ふ父に胆石できたまま 島崎寛永【季語=年迎ふ(新年)】 
  2. 【冬の季語】寒の内
  3. 息触れて初夢ふたつ響きあふ 正木ゆう子【季語=初夢(新年)】
  4. 誰をおもひかくもやさしき雛の眉 加藤三七子【季語=雛(春)】
  5. 【連載】久留島元のオバケハイク【第4回】「野槌」
  6. 引退馬支援と『ウマ娘』と、私が馬を詠む理由
  7. 【秋の季語】白式部
  8. 【連載】もしあの俳人が歌人だったら Session#3
  9. 神保町に銀漢亭があったころ【第13回】谷口いづみ
  10. 【春の季語】花粉症
PAGE TOP