ハイクノミカタ

流星も入れてドロップ缶に蓋 今井聖【季語=流星(秋)】


流星も入れてドロップ缶に蓋

今井 聖


ドロップ缶という響きがとてもなつかしい。

子どもの頃、ドロップ缶を手に持っているだけでも、何か特別な気持ちがして嬉しかったのを思い出す。缶にドロップがあたってガチャガチャと音を立てる感じや、取り出し口の丸い穴から中身を幾度も覗いたこと。取り出してドロップの色を選ぶ楽しさ。半透明で一つ一つが宝石みたいな形をしていた。

蓋も嵌め込み式のペコッとしたもので、きちっとはまりすぎると開けられなくなったりもした。

そんな一つ一つがとてもなつかしい。

サクマのドロップと覚えていたけれど、正確にはサクマドロップスとサクマ式ドロップスの二種類あって、缶の色も赤と緑と違っていた。

私は赤色の缶を覚えているから、サクマ式ドロップスの方だったんだなあ。

ドロップ缶を手に夜空を眺めていたら、きらりと星が流れた。

私が感じたなつかしさのように、この句は、作者の記憶の中にある遠い日のたいせつな風景と繋がっているように思える。

流星をドロップ缶に入れられたら、どんなにか楽しいことだろう。

きっと缶の中でキラキラしながら、素敵な音を立てるに違いない。

(日下野由季)


🍀 🍀 🍀 季語「流星」については、「セポクリ歳時記」もご覧ください。


【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 月光にいのち死にゆくひとと寝る 橋本多佳子【季語=月光(秋)】
  2. 湯の中にパスタのひらく花曇 森賀まり【季語=花曇(春)】
  3. 短日のかかるところにふとをりて 清崎敏郎【季語=短日(冬)】
  4. 麗しき春の七曜またはじまる 山口誓子【季語=春(春)】
  5. 新道をきつねの風がすすんでゐる 飯島晴子【季語=狐(冬)】
  6. 妻の遺品ならざるはなし春星も 右城暮石【季語=春星(春)】
  7. 風の日や風吹きすさぶ秋刀魚の値 石田波郷【季語=秋刀魚(秋)】
  8. ごーやーちゃんぷるーときどき人が泣く 池田澄子【季語=ゴーヤー(…

おすすめ記事

  1. サイネリア待つといふこときらきらす 鎌倉佐弓【季語=サイネリア(春)】
  2. 酒よろしさやゑんどうの味も好し 上村占魚【季語=豌豆(夏)】
  3. 【春の季語】蝶
  4. 【夏の季語】雲の峰
  5. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【番外ー1】 網走と臼田亞浪
  6. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2022年7月分】
  7. 指は一粒回してはづす夜の葡萄 上田信治【季語=葡萄(秋)】
  8. 神保町に銀漢亭があったころ【第25回】山崎祐子
  9. 紫陽花剪るなほ美しきものあらば剪る 津田清子【季語=紫陽花(夏)】
  10. 【冬の季語】日記買う

Pickup記事

  1. 【新年の季語】小豆粥
  2. 【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【14】/野村茶鳥(屋根裏バル鱗kokera店主)
  3. 悉く全集にあり衣被 田中裕明【季語=衣被(秋)】
  4. 【冬の季語】ストーブ
  5. 聞えない耳なら石榴ぶらさげよ 金原まさ子【季語=石榴(秋)】
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第108回】麻里伊
  7. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第35回】英彦山と杉田久女
  8. 【第6回】ポルトガル――北の村祭と人々2/藤原暢子
  9. 神保町に銀漢亭があったころ【第10回】相沢文子
  10. 【冬の季語】兎狩
PAGE TOP