【第14回】
海外からの刺客
(2009年 ジャパンカップ コンデュイット)
今年(2024年)のジャパンカップに向け、例年以上の盛り上がりを見せている競馬界隈。
理由のひとつは、なんと言ってもオーギュストロダンの来日、出走だろう。
ここで言うオーギュストロダンは彫刻『考える人』を作った人物ではなく、馬の名前である。
オーギュストロダンはアイルランドの競走馬。
競馬発祥の地であるイギリスのダービーを勝利するなど海外で勝利を重ねており、日本競馬の至宝、ディープインパクトのラストクロップ(最後の産駒)としても注目されている。
日本競馬の血統が世界で活躍している現実に、私はまだ少し夢の中にいるような気持ちでいるが、そんなオーギュストロダンのラストラン、引退レースが今回のジャパンカップなのである。
父ディープインパクトの活躍した日本で競走馬生活を終えることとなったオーギュストロダンを一目見ようと、日曜は大勢のファンが東京競馬場に集結するはずだ。
日本の馬場は合うのか、長距離輸送の影響はあるのか、そもそも走る気持ちはあるのか。
オーギュストロダンに関する様々な要素を組み合わせ、考え、競馬ファンはまさに『考える人』状態となっている。
私もオーギュストロダンの馬券的取捨に少し悩んだが、今までの彼のレースを見返すと「この馬を信じてみたい」という気持ちになる。
彼の走りは強く、美しい。
ジャパンカップは国際招待競走で、今までに多くの外国馬たちが出走してきた。
その中でも私が特に印象に残っているのが、2009年に来日したコンデュイットである。
ウェブサイト「netkeiba」より(画像をクリックすると飛びます)
コンデュイットの何が素晴らしかったかというと、その馬体である。
筋肉隆々。
特に胸元の筋肉が今まで見たどの馬よりも発達しているように感じた。
筋肉、トモの張り、尻の大きさ。
「さすが外国馬!」と思わず唸ってしまうほど、他のどの馬よりも強靭に見えた。
当時の彼氏(現在の夫)とパドックで「コンデュイットの筋肉がやばい!」と盛り上がったのは良い思い出である。
今でも筋肉質な競走馬を見ると「コンデュイットみたい」と表現してしまう。
それくらい、私にとっては衝撃的な馬体をした馬だった。
満々たる馬の臀見え冬越す芽 成田千空
「満々たる」の表現に賛成。
きっとこれはコンデュイットのような逞しさを備えた馬を詠んだ句なのだろうと想像する。
私は馬の尻が好きでよく馬の尻の句を詠むのだが、この句の「臀」という表記には馬の尻のまた違った魅力が込められているように思う。
コンデュイットはイギリスの競走馬で、ブリーダーズカップ・ターフ、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスなどを勝利。
凱旋門賞でも4着に入る、その見た目だけではなく実力もある、強い馬だった。
そしてコンデュイットもまた、オーギュストロダンと同じく、2009年のジャパンカップがラストラン。
結果は4着だったが、その後は日本で種牡馬となった。
2015年に北アイルランドへ輸出され、2020年に15歳で亡くなっている。
事情は様々だが、ラストランに日本のレースを選んでもらえるのが私はとても誇らしい。
ジャパンカップというレースの存在そのもののレベルが高く、みんなが憧れる、出走したいと思えるレースになってきている。
世界に通用する日本競馬を目指してきたが、次第に世界を牽引する日本競馬になりつつあるのではないだろうか。
世界最強馬のイクイノックスを輩出したことからも、その手応えを感じる。
折角目指すのであれば、日本だけでなく世界の頂点を目指したいと思うのは、どの世界でも同じことなのかもしれない。
今回はオーギュストロダンの他にも、フランス馬のゴリアット、ドイツ馬のファンタスティックムーンがジャパンカップに出走する。
今年のジャパンカップは海外からの刺客にもぜひ注目して、競馬観戦を楽しんでもらえたら嬉しい。
もちろん、ドウデュースをはじめとする日本馬も強豪揃い。
どの馬が勝つのか。どんな展開になるのか。
などと、これから巻き起こる熱い一戦のことを思うと何も手につかなくなってしまうので、こういう時こそ粛々と俳句に勤しみたいと思う。
【執筆者プロフィール】
笠原小百合(かさはら・さゆり)
1984年生まれ、栃木県出身。埼玉県在住。「田」俳句会所属。俳人協会会員。オグリキャップ以来の競馬ファン。引退馬支援活動にも参加する馬好き。ブログ「俳句とみる夢」を運営中。
【笠原小百合の「競馬的名句アルバム」バックナンバー】
【第1回】春泥を突き抜けた黄金の船(2012年皐月賞・ゴールドシップ)
【第2回】馬が馬でなくなるとき(1993年七夕賞・ツインターボ)
【第3回】薔薇の蕾のひらくとき(2010年神戸新聞杯・ローズキングダム)
【第4回】女王の愛した競馬(2010年/2011年エリザベス女王杯・スノーフェアリー)
【第5回】愛された暴君(2013年有馬記念・オルフェーヴル)
【第6回】母の名を継ぐ者(2018年フェブラリーステークス・ノンコノユメ)
【第7回】虹はまだ消えず(2018年 天皇賞(春)・レインボーライン)
【第8回】パドック派の戯言(2003年 天皇賞・秋 シンボリクリスエス)
【第9回】旅路の果て(2006年 朝日杯フューチュリティステークス ドリームジャーニー)
【第10回】母をたずねて(2022年 紫苑ステークス スタニングローズ)
【第11回】馬の名を呼んで(1994年 スプリンターズステークス サクラバクシンオー)
【第12回】或る運命(2003年 府中牝馬ステークス レディパステル&ローズバド)
【第13回】愛の予感(1989年 マイルチャンピオンシップ オグリキャップ)