いつの間に昼の月出て冬の空
内藤鳴雪
雲一つない冬の空に、うっすらとかかる昼の月。
「いつの間に」という表現が素直すぎて巧い句ではないけれど、何だかとても共感できる句だ。
この「いつの間に」には、「もう昼の月が出ている!」というちょっとした驚きがある。
冬空の青を透かすようにかかる昼の月が、儚くも綺麗だ。
内藤鳴雪は明治・大正時代の俳人。
昔の人という感じがしていたけれど、自分と同じところに目を留めて、それを素直に詠んでいるところに、なんだか親しみを感じる。
鳴雪は飄逸恬淡な人柄で、とても愛された人らしい。
この句の衒いのなさにも、そんな人柄が感じられるようにも思う。
漢学を大原観山に学び、俳句はその娘の子、正岡子規に学んだ。
詩は祖父に俳句は孫に春の風
こんな句も残している。
(日下野由季)
【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。