コック・オ・ヴァン
coq au vin
秋も深まってきました。こっくりとした赤ワインに合う肉料理が恋しくなる季節です。
コック・オ・ヴァン。鶏の赤ワイン煮込みは、フランス各地で作られてきた昔ながらの田舎料理です。
ふつう、フランスで食用に買う鶏肉はプレ(poulet)と呼びます。コック(coq)は雄鶏のこと。
卵を産まず、食用に太らせるのにも向いていない雄鶏を、昔の農家では自家用に絞めて食べていたのでしょうね。肉が硬いため赤ワインで柔らかく煮込むようになったのでしょう。
ところで雄鶏は、フランス国家の象徴でもあります。
フランス地域をさす古代の呼び名・ガリア(ゴール Gaule ) が、雄鶏を意味するラテン語 Gallus と響きが似ていたのがその起源だそうですが、真っ先に夜明けを告げる鳴き声や、挑発的でけんかっ早いとされる雄鶏の性質が、きっとフランス人の好むところだったのでしょう。
勇敢な挑戦者・誇り高き不屈の戦士のシンボルとして、古くからフランスの王家や国家の紋章などに使われてきました。
現代でも、ラグビーやサッカーのワールドカップでフランス代表チームのユニフォームには、雄鶏のマークがついていますね。
こんな説もあります。
カエサルのガリア侵攻の際、ガリア人の英雄ウェルキンゲトリクスが、敵陣のカエサルに示威と抵抗の意をこめて一羽の雄鶏を贈った。カエサルはそれを笑い飛ばし、部下に命じて料理させ食べてしまった。
これがコック・オ・ヴァンという料理のはじまり、というのですが、ちょっと、眉唾ものですね。
ウェルキンゲトリクスはその後、部族ごとに独立してまとまらないガリア民族を統率し、ローマ軍に抗戦を続けましたが、紀元前52年10月、アレジアの戦いに敗れカエサルの陣に投降したのでした。ウェルキンゲトリクスの降伏の場面は、多くの絵画の題材にもなっています。
わが家のコック・オ・ヴァンは、ぶつ切りの鶏肉を使う簡単バージョン。マリネなど下拵えの手間を省き、ご飯にも合うおかずになりました。
城門やいくさもなくて草の花 正岡子規
季語【草の花】【秋深し】【十月】
*本記事は野崎海芋さんのInstagram( @kaiunozaki )より、ご本人の許可を得て、転載させていただいております。本家インスタもぜひご覧ください。
【執筆者プロフィール】
野崎 海芋(のざき・かいう)
フランス家庭料理教室を主宰。 「澤」俳句会同人、小澤實に師事。平成20年澤新人賞受賞。平成29年第一句集『浮上』上梓。俳人協会会員。
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