
【秋の季語=三秋(8-10月)】秋の蚊
暦の上で秋を迎えたあとも残っている「蚊」のこと。
刺されれば痒みを覚えるけれども、気温がさがっていてもなお生き永らえている蚊には、哀れさもまた感じてしまうのが俳人の性。
子規が〈秋の蚊のよろよろと来て人を刺す〉を作っているように、なんとなく弱々しいというイメージはある。虚子の〈秋の蚊を手もて払へばなかりけり〉や立子の〈秋の蚊を払へばほろと消えにけり〉あたりもその路線であろう。
季語としては、「残る蚊」「名残の蚊」ともいう。また、省略的に「秋蚊」とも。
「蚊」は夏の季語である。
【秋の蚊(上五)】
秋の蚊にわれゆつくりと食はれもす 後藤夜半
秋の蚊のほのかに見えてなきにけり 日野草城
秋の蚊を掴み損ねし山男 辻田克巳
秋の蚊の捨身の針に刺されけり 宮本啓子
秋の蚊の声を秘仏の声かとも 鷹羽狩行
秋の蚊につけこまれたる小諸駅 寺澤一雄
秋の蚊を打ち腹巻の銭を出す 大西晶子
秋の蚊のまともに水のくらさかな 山口昭男
秋の蚊をしばし泳がせたるこころ 櫂未知子
秋の蚊の誰も知らぬ血を漱ぐ 堀切克洋
秋の蚊の志なく飛びゆけり 中西亮太
【秋の蚊(中七)】
庭履の四五歩に秋の蚊を叩く 徳澤南風子
子が二人秋の蚊ほどにしつこかり 対中いずみ
パソコンの熱に秋の蚊ふはふは来 松野苑子
【秋の蚊(下五)】
くはれもす八雲旧居の秋の蚊に 高濱虚子