夏の季語

【夏の季語】田植

【夏の季語=仲夏(6月)】田植/田植笠 田植歌 田植時

【ミニ解説】苗代田(水稲の種を蒔いて苗を仕立てる所)で12〜15cmほどまで成長した苗を、田んぼに移植する作業が「田植」。『糸屑』(元禄7年、1694年)に初出。季語として使うときは一般に送りがなを送らずに表記します。

田植をする前の田んぼを水を引いて掻きならすことを「代掻」、そして田植の準備ができた田んぼのことを「代田」といいます。そしてそこに植える小さな苗のことを「早苗」といいます。

田植えの時期は地域によって異なりますが、一般的に本州では5〜6月に田植を行います。現在では田植機を使って等間隔で植えていきますが、昔は手で1つ1つ苗を植えていく重労働でしたが、現在では田植機を使って等間隔で植えていきました。

田植えは古来から「乱雑植」といって、けっこういい加減に植えられていたのですが、明治30年代くらいから、縄や木枠などを使って整然と植えられるようにになりました(「正条植え」と呼ばれます)。田植は主に女性の仕事で、田植をする女性は早乙女と呼ばれていました。男性が苗を運んで田んぼに目印を付けたあと、早乙女たちが苗籠を腰に付けて田植をしていたのです。人手が必要なので、農村部では子供たちも田植のお手伝い。「田植休み」なんてのがありました。

稲の成長には水が必要。「雨乞」なんて季語もありますが、最近は温暖化で大雨のニュースばかり。河川が氾濫し、水田が冠水したりすると、田んぼに砂利や木の枝が流れ込んで、生育にも影響があるので、ぜんぜん喜べません。死活問題です。

以下は、早乙女の田植うたのニュース。トラクターや耕運機には、デスメタルとかが案外合うんじゃないかと思います。

【関連季語】代掻く、早苗、青田、雨乞、梅雨、水番、水喧嘩など。


【田植(上五)】

【田植(中七)】
鯰得て帰る田植の男かな 与謝蕪村
明るさの田植の足を洗ふなる 高野素十
巡錫や田植すみたる一在所 大谷句佛
水張りて田植の順を待ちてをり 福田甲子雄
半休を取りて田植を済ましたる 杉原祐之

【田植(下五)】
湖の水かたぶけて田植かな 几董
岩木山雪なほのこる田植かな 足立黙興
良寛の乞食(こつじき)のみち田植かな 沢木欣一
片あしのおくれてあがる田植かな 阿部青鞋
飛んでくる雀の映る田植かな 三橋敏雄
一山の雲を踏み抜く田植かな 上野澄江
いくたびも揺るる大地に田植かな 長谷川櫂

【田を植うる】
田一枚植ゑて立ち去る柳かな 松尾芭蕉
忽ちに一枚の田を植ゑにけり 高浜虚子
畦の木は大方ポプラ田を植うる 高浜虚子
田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
田を植ゑて空も近江の水ぐもり 森澄雄
しづかにも田植ゑて山河あらたまる 森澄雄
ハライソの雨の水輪の田を植うる 加倉井秋を
田を植ゑて海に浮きたる水の国 矢島渚男
ひるまへの屋根に人ゐる田を植うる 

【田植機】
田植機に豊かに乗りて名もなけれ 斎藤夏風
田植機が窮屈さうに折り返す 大串章
田植機の日を躍らせて折り返す 能村研三

【田植笠・田植の笠】
我影や田植の笠に紛れ行 支考
田植笠並びかねたる如くなり 高浜虚子
線と丸電信棒と田植笠 高浜虚子
田植笠紐結へたる声となる 中村汀女
みめよくて田植の笠に指を添ふ 山口誓子

【田植唄】
田うゑ唄あしたもあるに道すから 千代女

【田植時】
背のびして電球灯す田植時 長谷川櫂

【田植水】
籬根をくヾりそめたり田植水 芝不器男


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