うつくしき羽子板市や買はで過ぐ
高浜虚子
東京では17日より3日間、浅草観音の境内で羽子板市が立つ。そのずらりと並んだ絢爛豪華な光景はまさに
羽子板市三日の栄華つくしけり 水原秋桜子
といった風情だ。羽子板に描かれたとりどりの絵や装飾が実に美しく、見ているだけでもおのずから華やいだ気分になる。
今年はコロナ禍でどうなるのだろうと思っていたが、例年通り変わらず市が立ったようだ。残念ながら見に行くことは叶わなかったのだが。
もともとは正月の遊びとしてつく羽子板を売る市で、羽子板には「邪気を跳ね返る板」として女の子の成長を願う風習があるのだそうだ。今では正月に羽子板をつく風習は廃れてしまったが、年の瀬の最後に立つ市でもある羽子板市はたくさんの人で賑わっている。
毎年、その年の世相を反映した羽子板が飾られて話題になっているが、今年はどんな羽子板が飾られていたのだろう。
掲句は「買はで過ぐ」がいかにも羽子板市らしい。見ているだけで、なかなか買うところまではいかないのだ。
朝顔市、鬼灯市、熊手市、羽子板市、と市が立つたびに訪れてはいるが、羽子板市だけはいまだに買ったことがない。
(日下野由季)
【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。