凧一つ大利根の空がらんどう 今村博子【季語=凧(春)】

一つ大利根の空がらんどう

今村博子

 人それぞれに故郷の原風景ってありますよね。俳句にも作者の個性のひとつとして、山や海や川、風、土、暑さ、寒さ、湿り気、乾きなどさまざまな形で現れます。表そうとしなくてもにじみ出てしまうのが、その人の「原風景」なのではないかと考えます。私は千葉県野田市の生まれ育ちです。利根川、江戸川、利根運河の3つの川に囲まれた、平らかな私の原風景。掲句は「句集 花野」(角川学芸出版・2014年刊)より。利根川沿いの広い空を「がらんどう」とはよく言い当ててくださいました。
 作者は私の実家のご近所の奥様。とても近くにお住まいながら、我が家とは40年以上特に目立ったお付き合いはなく、母が俳句を縁に最近お話をするようになったそうです。ご本人の初句集「下つ総」とこの第2句集「花野」は母から借りて読みました。作者は昭和7年広島県尾道市のお生まれ。転勤の多いご主人に付いて何度もお引越しをされ、1980年から住まわれた野田で俳句を始められたとのこと。「子供たちも成長し、巣立ち、この地を終の栖と思うようにな」った、と書かれています。
 野田市は、醤油の街のイメージが強いのですが、中途半端な田舎で、私の生まれ育った郊外の住宅地は、芯の無い、密度の無い土地柄です。今思うと、幼い頃利根川の土手で芝すべりをしたり、田芹を摘んだり、酸模かじったりした取るに足らない思い出も、俳句にとって良い経験だったと思います。
 他の土地に生まれ育った方が縁あって私の生まれた街に住み、肯定的に景を詠んで下さることで、愛郷心が刺激されました。『下つ総』に掲載の〈若菜摘む住めば都のしもつふさ〉も原住民にとって嬉しい句です。

白井飛露



【執筆者プロフィール】
白井飛露(しらい・ひろ) (本名・聡子)
1977年、千葉県野田市生まれ。流山市在住。2010年「かぞの会」参加、2012年「大倉句会」参加。「玉藻」「銀漢」同人。俳人協会会員。
旅行雑誌の編集プロダクション、ゴルフ雑誌出版社勤務などを経て、(株)ウインダムにて展覧会や美術展のPRに携わる。一般社団法人10000日記念日代表。
2025年11月に初句集『輪郭』(朔出版)上梓。



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