恋ふる夜は瞳のごとく月ぬれて 成瀬正とし【季語=月(秋)】

 虚子より学んだ写生の眼は、的確にものの本質を捉え、鮮明に描いた。

  落花いま紺青の空ゆく途中

  行秋や音たてて雨見えて雨

  ラグビーのぶつかつてゐる虚空かな

  梅の香のただよふほどの風はあり

 ものの本質を見極める眼は、詩の言葉をつむぎだし、抒情性の高い表現へと発展した。

  初花となりて力のゆるみたる

  春惜しむ心ゆすりて風荒し

  緑とは暮れきらぬ色白夜の野

闇涼し富士の気配をぬりつぶし

  旅人の影を重ねし泉かな

 虚子を慕い、俳句を好み、城を愛した。

  ふところに句帳と財布春惜しむ

  惜春の酒一二杯虚子を恋ふ

  夏めくや海へ向く窓うち開き

  寿命とはそれぞれのもの梅雨の蝶

 犬山城は、現在、公益財団法人犬山城白帝文庫所有で、長女の成瀬淳子氏が理事長を務める。最後の殿様となった成瀬正俊氏は、城と宝物が守られたことを見届けるようにして世を去ったという。

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