重さうに垂れ春昼の象の鼻 高浜礼子【季語=春昼(春)】

重さうに垂れ春昼の象の鼻

高浜礼子

掲句をはじめて読んだ時、春の昼の静かな眠気のようなものを感じました。
まず目に入るのは「重さうに垂れ」という視覚的な把握です。象の鼻はもともと長く垂れているものですが、作者はそれを「形」としてではなく「重さ」として捉えています。

けれども、その重さは物理的な重力だけではないように感じられました。

「春昼」という季語が入った瞬間、世界はやわらぎます。
春の昼は、光が満ちているのに緊張がなく、時間は急がず、どこかなめらかで平らにひろがる感じがあります。音も影もやわらかい。
その春昼の空気の粘度のようなものが、象の鼻をいっそう重たげに見せています。

ゆっくり流れる時間の中では、物はわずかに沈むように見えます。
「ゆっくり動く=重い」という感覚は、まさに人間の知覚の働きでしょう。

また、「垂れ」という動きの語を与えられたことで、象に微かな時間が通います。
その微小な動きが春昼の緩慢さと呼応し、世界全体が少しだけ下へ沈んだように感じました。読者である私の瞼も沈んでいきました。

この句の魅力は、重さを描きながら、実は時間の質感を描いているところにあると思います。

象の鼻が重いのではなく、春昼そのものが世界を少しだけ重くしている。
その錯覚の一瞬を、静かに掬い取った一句ではないでしょうか。

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




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