夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊【季語=夏めく(夏)】

夏めくや海へ向く窓うち開き

成瀬正俊なるせまさとし 

 インターハイ予選が終わって出場校が出揃った。東京からは、八王子学園八王子高校と國學院久我山高校の2校が出場を決めた。スラムダンクの舞台となった神奈川県は、東海大学付属相模高校、湘南工科大学附属高校が出場する。湘南工科大学付属高校は、スラムダンクに登場する海南大付属高校のモデルになった学校と言われている。

〈努力すれば報われる? そうじゃないだろ。報われるまで努力するんだ〉とは、史上最高のサッカー選手と称されているリオネル・メッシの言葉。私はサッカーのことをほとんど知らない。ただ、メッシというすごい選手がいるということは知っている。常に結果を出し続ける人は自分に厳しく、志も高い。けれども、メッシが、幼少期に指定難病とされている「成長ホルモン欠乏症」を患っていたということを知って、この言葉の意味を考えた。

 木暮(こぐれ)(きみ)(のぶ)は、湘北高校バスケ部の3年生で副キャプテンを務めている。キャプテンの赤木とは、中学のバスケ部からの友達だ。元々は湘北バスケ部のレギュラーでフォワードだったが、花道、流川、宮城、三井がチームに合流してからは、控えの選手となった。陵南高校の田岡監督は、後半、三井の代わりにコートに入った木暮を湘北の不安要素として考え、「赤木・流川にボールが渡ったら必ずWチームにいけ」「木暮はある程度離しといていい!!」と指示を出す(新装再編版13巻163ページ)。その直後、木暮は、受け取ったパスから冷静なスリーポイントシュートを決める(新装再編版13巻182~183ページ)。

夏めくや海へ向く窓うち開き

「夏めく」とは、万物すべてが夏の装いを始める、その心持を表す。海は季節に関係なくいつもそこにあるものだけど、夏の海は、多くの人が集まり賑やかで明るい。また、「うち開き」という言葉には、満を持して開いた感じがあって、静かに重ねてきたものが、華やかな海に向かって勢いよく放たれたのだとわかる。作者は、尾張藩付家老、犬山藩主成瀬正成の末裔で国宝犬山城の第12代城主、成瀬(なるせ)正俊(まさとし)

 木暮のスリーポイントシュートによって、湘北は、勝利を大きく引き寄せ、インターハイへの出場を決めた。陵南の監督とすれば、絶対的な決定力を持つ、赤木や流川に注意を払うのは当然のことだっただろう。木暮をたたえ、喜び合う湘北メンバーを見ながら、田岡監督の目に涙が滲む。「あいつも3年間がんばってきた男なんだ」「侮ってはいけなかった」(新装再編版13巻187ページ)

岸田祐子


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十


◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。



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