【冬の季語】蜜柑

【冬の季語=三冬(1月)】蜜柑

「するとその瞬間である。窓から半身を乗り出してゐた例の娘が、あの霜焼けの手をつとのばして、勢よく左右に振つたと思ふと、忽ち心を躍らすばかり暖な日の色に染まつてゐる蜜柑みかんが凡そ五つ六つ、汽車を見送つた子供たちの上へばらばらと空から降つて来た。私は思はず息を呑んだ。さうして刹那に一切を了解した。小娘は、恐らくはこれから奉公先へ赴おもむかうとしてゐる小娘は、その懐に蔵してゐた幾顆いくくわの蜜柑を窓から投げて、わざわざ踏切りまで見送りに来た弟たちの労に報いたのである」(芥川龍之介「蜜柑」

「蜜柑の花」「蜜柑咲く」「夏蜜柑」は初夏の季語。「青蜜柑」は秋の季語とされる。


【蜜柑(上五)】
路上に蜜柑轢かれて今日をつつがなし 原子公平
手にみかんひとつにぎって子が転ぶ 多田道太郎
みかん黄にふと人生はあたたかし 高田風人子
みかんむくとき人の手のよく動く 若杉朋哉

【蜜柑(中七)】
をとめ今たべし蜜柑の香をまとひ 日野草城
明るくて蜜柑の世界のみ昏れず 市場基巳
掌に包む蜜柑のような言葉欲し 神野紗希
試験近しみかんを剥くときに力  越智友亮

【蜜柑(下五)】
豚汁の後口渇く蜜柑かな 正岡子規
これ以上進まぬ二人蜜柑むく 関根優光
去りぎはに鞄に入るる蜜柑二個 千野千佳

【自由律】
蜜柑を焼いて喰ふ小供と二人で居る   尾崎放哉
みかんいろのみかんらしくうずもれている 岡田幸生
落ちつきないおばあちゃんの冷凍みかん 本間鴨芹


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