二日目のおでん帰らぬ猫のこと 福田和子【季語=おでん(冬)】

二日目のおでん帰らぬ猫のこと

福田和子

少し前に庭へ棲みついた猫が帰ってこないまま三日が経った。家族は「前だってあっただろう。気が向いたらまた帰ってくるさ」と言うけれど、今回はこの大寒波が来ている中でのこと。あまり食欲はないが、猫を待つ間も仕事はあるし食べなくては体がもたない。昨日仕込んだおでんを温め直すため鍋に火をかけた。

庭の猫はお世辞にも美猫とは言い難いが何とも言えぬ愛嬌がある猫だった。半野良の割に整った毛並みにぼってりとした体、目つきは悪いが人懐こさもある。干している座布団の上で昼寝するようなふてぶてしさもあったが、おっさんのような声でだみ声で足元にすり寄ってくると許せてしまった。いつか飼うならこんな猫、と思っていた理想の猫とはかけ離れていたが、私の中ではもう立派に「うちのこ」だったんだ。

おでんは大きな鍋で作ったから温め直すのにも時間がかかる。コトコト音を立てる鍋の前に立っているとまた心配ばかり浮かんでくるからレンチンすればよかった。お腹すいていないかな、風邪ひかないよね、もっと早く家に上げていたら。まさか車に…と最悪のことを浮かべる前にちょうど鍋が沸いてくれてよかった。

二日目のおでんの大根は舌で潰せるほど、はんぺんは飲めるほどに柔らかく喉を通っていく。牛すじをむちゃむちゃ噛んでいる間は余計なことを考えなくて済む。食欲がないはずなのに箸は進み、気付けば辛子が溶けた汁まで飲み干していた。

大丈夫。あのこの愛嬌と図太さならきっとどこでも可愛がられているはず。お腹が温まる頃にはいつの間にかそんな自信が湧いていた。人間は勝手だよねと自嘲しつつも、なんとなくあのこは元気だという確信がある。そして帰って来たら今度はちゃんと「うちのこ」として家に迎えよう。よく陣取っていた座布団は空けておくから。

(「同志社女子大学「乙女ひととせLINE句会絵葉書Dセット」より イラスト:佐々木恵子)

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この冬最大の寒波が押し寄せる今週は、味覚面における純粋な「おいしさ」のほか生きるため、心を保つための食事という観点から鑑賞させていただきました。掲句の猫が無事に帰ってくることを祈りつつ…

さて今回はレシピではなく、自身が俳句を始めるきっかけとなった母校の同志社女子大学(以下同女)の「乙女ひととせ句会」と俳句絵葉書の活動を紹介させてください。

同女の表象文化学部日本語日本文学科では現在「クリエイティブ・ライティング」という俳句創作および句会・鑑賞を行う講義が塩見恵介先生により開講されています。その講義をきっかけに俳句の楽しさに目覚めた卒業生や教職員によって発足したのが「乙女ひととせ句会」で、現在は主に月に一回オンライン上で句会を行っております。

また素敵な句はイラストレーターの佐々木恵子さんにより俳句を絵葉書にしていただき、今では花を活けるように飾って鑑賞できる絵葉書として頒布が始まりました。掲句のほかにもご紹介したい作品は尽きませんが、その中でも私が好きな季節ごとの句を絵葉書と共にお楽しみください。

〈ペンギンと空を見ていたクリスマス:塩見恵介〉

〈スタッカートの指柔らかく春の雨:窪田理恵〉

〈五月雨やキャリーケースの足を拭く:村川歩里〉

〈恋バナはアップルパイを焼くように:松尾唯花〉

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乙女ひととせ句会は旧かな・新かな、文語・口語なんでもあり。こんな季語の解釈があったんだ!というカルチャーショックを受けることもしばしば。その自由な雰囲気の中で生まれた数々の句は今もお守りとして、時に心の着火剤として支えてくれるのです。

世間ではちょうど受験シーズンですね。この春も同女に限らず俳句と出会い、その魅力に目覚める人が生まれると思うと心が躍ります。その際はいつか句会でお会いしましょう!そして心のままに創作を楽しむことができますように。

極寒の折、みなさまどうかご自愛くださいね!

▼「乙女ひととせ句会」の詳細・俳句絵葉書の頒布はこちらから!▼
乙女ひととせ句会 – 同志社女子大学日本語日本文学会 同女 日文学会

▼イラストレーターの佐々木恵子さんの作品はこちら!▼
トップページ – イラストレーター佐々木恵子のポートフォリオサイト

佐野瑞季


【執筆者プロフィール】
佐野瑞季(さの・みずき)
1997年静岡県生まれ
雲の峰」所属 超結社句会「四季の料理帖」代表
第17回鬼貫青春俳句大賞
夢はかまくらの中でお餅を焼くこと
・E-mail:kigotabekukai@gmail.com
・X @Sano_575
・Instagram @sano_575
・四季の料理帖X @kigotabe
・四季の料理帖Instagram @shikinoryoricho



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