節分の鬼に金棒てふ菓子も
後藤比奈夫
「鬼に金棒」という菓子はほんとうにあるのだろうか。このような疑問が浮かんだとき、現代ではすぐに検索できるので便利。
結論からいえば、「鬼に金棒」「鬼の金棒」という菓子は実際にある。有名かどうかは知らないが、そのものズバリという名前の菓子もあったし、北海道の登別温泉のお土産に「のぼりべつ金棒チョコバー」というものもあった。このパッケージには鬼が金棒を持っているイラストが描かれている。
いくつかある「金棒」菓子に共通しているのは、棒状のチョコレートにナッツや豆が埋め込まれていることだ。昔話の鬼が持っている金棒はたいてい突起で覆われていることになっているので、それを模したということなのだろう。
節分の鬼に金棒てふ菓子も
比奈夫らしい力の抜けたユーモアのある句。節分の豆を買いに行ったところ、近くに「鬼に金棒」が置いてあって、孫が喜ぶだろうと思ってつい手に取ったのだろう。食料品店の戦略にまんまとはまってしまったのだ。
「鬼に金棒」という、まあベタと言っていいネーミングにも脱力するし、節分で退治されるべき鬼が菓子となって喜ばれるというおかしみもある。何より、小さな子どもにとっては、「豆まき」というイベントの楽しみに「鬼に金棒」というチョコレート菓子がついてくるのだからたまらないだろう。それを買っていく祖父の気持ちになってみれば、孫を喜ばせるのにまさに「鬼に金棒」である。
微笑を浮かべながら「鬼に金棒」をレジに持って行く比奈夫の顔が目に浮かぶようだ。
「残日残照」(2010年)所収。「後藤比奈夫俳句集成」より引いた。
(鈴木牛後)
【執筆者プロフィール】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)
1961年北海道生まれ、北海道在住。「俳句集団【itak】」幹事。「藍生」「雪華」所属。第64回角川俳句賞受賞。句集『根雪と記す』(マルコボ.コム、2012年)、『暖色』(マルコボ.コム、2014年)、『にれかめる』(角川書店、2019年)。
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