そよりともせいで秋たつことかいの 上島鬼貫【季語=秋立つ(秋)】


そよりともせいで秋たつことかいの

上島鬼貫


今日は立秋。暦の上では秋になっても、猛暑日はつづく。掲出の句は、風がそよそよと吹くわけでもなく、本当に秋になったのだろうかという意。立秋の心持ちを率直かつ的確に表し、現代でもしばしば引用される句だ。

上島鬼貫うえしま おにつらは、江戸時代を代表する俳諧師の一人。現在の兵庫県伊丹市に生まれ、幼いころより俳諧に親しむ。代表作に<にょっぽりと秋の空なる富士の山>、<行水の捨て所なし虫の声>、<面白さ急には見えぬすすきかな>などがある。

松尾芭蕉の金言の一つに「俳諧の益は俗語を正す也」がある。和歌や連歌では、洗練された上品なことばを用いたのに対し、日常のことばを積極的に掬い取ったのが俳諧。日本の詩歌で振り向かれてこなかった俗語は、俳諧によって詩語に昇華されたといえよう。

掲出の句群には、「秋たつことかいの」「にょっぽりと」「行水」など日常のことばや素材が、いきいきと用いられている。鬼貫は「まことのほかに俳諧なし」と述べ、句を作るうえで、日常のことばを使い、姿を飾らず、ありのままを表現する真実のまことが大切であるという俳風を確立した。

煙草屋に買ふ新聞や花カンナ
野名紅里

第20回鬼貫青春俳句大賞を受賞した『エンドロール』(30句)に収められている一句。煙草屋で新聞を買うという、日々の暮らしをありのままに描いている。卑近なことばや素材は、美しいとはいえないかもしれない。しかし、それらを大らかに肯定し、愛することのできる俳句の心は、まことに広量で美しい。

進藤剛至


【執筆者プロフィール】
進藤剛至(しんどう・たけし)
1988年、兵庫県芦屋市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。稲畑汀子・稲畑廣太郎に師事。甲南高校在校中、第7回「俳句甲子園」で団体優勝。大学在学中は「慶大俳句」に所属。第25回日本伝統俳句協会新人賞、第10回鬼貫青春俳句大賞優秀賞受賞。俳誌「ホトトギス」同人、(公社)日本伝統俳句協会会員。共著に『現代俳句精鋭選集18』(東京四季出版)。2021年より立教池袋中学・高校文芸部を指導。


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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