【卵の俳句】

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【卵の俳句】

【解説】本来、鶏の産卵期は春から夏にかけてで、冬は産卵しませんでした。1月末日ごろから七十二候の「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」となりますが、これは春の到来を感じた鶏が鳥屋に入って卵を産み始める頃という意味。立春のイメージと卵は深く関わっています。

だからこそ冬の時期の「卵」は希少で、俳句では「寒卵」という冬の季語がメジャーです。寒中つまり現在の1月ごろに生まれた卵は、滋養が豊かとされていますが、産卵数は減ることに加えて、スーパーのない昔は冬の寒い時期の食べ物は保存食がメインだったこともあるのでしょう。風邪を引いたときに飲む「玉子酒」も冬の季語として知られています。

ちなみに「立春に卵が立つ」という話、聞いたことあるでしょうか。まだ占領下の1947年、立春の上海や米国で卵を立てる実験に成功した、というニュースが報道されたことがあったのです。それに疑問を感じ、卵を徹底的に調べたのが当時北大教授の中谷宇吉郎博士でした。そのことは、「立春の卵」というエッセイにまとめられています。青空文庫でも読むことができます。

まあ、卵は1年中立ちますよ、という話なのですが、わざわざそんなことをする人はいままでいなかったのだろう、という話。俳句でもその影響なのか、いや卵のもっている生命の胎動のイメージなのか、立春でなくとも春の句のなかに卵が登場することは、けっこう多いように思います。もっとも知名度があるのは、中村汀女の〈ゆで卵むけばかがやく花曇り〉でしょうね。「染卵」は「イースター(復活祭)」の傍題です。

ところで日本は、世界有数の卵消費国。JA全農たまご株式会社が発行する「鶏鳴新聞」2020年9月15日号によれば、最新のデータで1人当たりの鶏卵消費量は「338個」で世界2位!ちなみに、1位はメキシコの372個(前年比4個増)、2位が日本の338個(同1個増)、3位がロシアの306個(同1個減)。4位は米国と中国の293個、6位はコロンビアの292個となっているそうです。

しかし日本で卵がこんなにたくさん食べられるようになったのは、昭和30年代以降のこと。この時代は栄養改善普及運動も盛んになり、食生活の欧米化が一気に促されて、肉・卵・牛乳・乳製品を積極的に食べることが推奨されました。その時に「タンパク質が足りないよ」をキャッチフレーズに、特にもてはやされたのがたまごでした。子供に人気あるものとして並び称された「巨人・大鵬・卵焼き」が流行語になったのは、1961年のこと。

ちなみに大鵬の初優勝が1960年(昭和35年)の11月場所、長嶋茂雄・王貞治のON砲に加えて川上哲治が監督に就任し、6年ぶりに日本シリーズを制覇したのが1961年(昭和36年)のこと。

日本の歴史では、仏教が伝わった奈良時代から安土桃山時代くらいまで、肉食を禁じるというコンセンサスがあったために、卵を食べるということはなく、大航海時代に海外から卵料理が伝わってきたこともあって、江戸時代には卵料理が増えていきました。そういえば、ポルトガルから伝わった「てんぷら」も「カステラ」も、卵を使いますよね。

ちなみに『俳句季語よみかた辞典』(日外アソシエーツ)を元にした「俳句季語辞典」や「きごさい」では、春の季語として「鳥の卵」が登録されており、「春に鳥が産んだ卵のこと」ありますが、これは食用の鶏卵ではなく、野鳥などの卵のこと。あまり「鳥の卵」を使った俳句というのはないですが、一般には「鳥の巣」「巣箱」「抱卵期(季)」などが、春の季語として通用しています。

にわとり関係の季語としては「鶏合」(春)、「羽抜鳥」(夏)、「焼鳥」(冬)、「初鶏」(新年)がありますね。そして鶏を詠んだ句としてもっとも名高いのは、芝不器男の〈永き日のにはとり柵を越えにけり〉でしょうか。

【関連季語】寒卵、玉子酒、立春、復活祭など。


<季語以外の「卵」の俳句> 

【春】
卵一つ立春の藪動乱す 原田喬
立春や黄身の崩れし目玉焼 穂坂日出子
立春の卵に尖る箸ならぶ 百合山羽公
建国記念日すでに冷たき生ま卵 高野万里
にわとりの卵あたたか春の雪 小西昭夫
春雪やはかなきことにヨード卵 塚本邦雄
流氷や男にわたす蒸卵 黒田杏子
卵ならそろそろ孵る春炬燵 小田島渚
啓蟄の地卵供ふ三輪の神 棚山波朗
啓蟄の卵をエッグスタンドに 松尾隆信
卵割る朝きさらぎの誕生日 吉田悦花
三月十日もんじゃに落とす生玉子 田付賢一
筆塚に摘みし土筆を卵とぢ 大庭星樹
鶏小屋に卵が五つ春疾風 高畑浩平
石段の陽炎をふむ卵売り 川崎展宏
卵置く三色菫の花の中 高野素十
朝ざくら家族の数の卵割り 片山由美子
卵など買ひたり遠ちに桜咲き 細見綾子
ゆで卵むけばかがやく花曇り 中村汀女
古妻の即ち韮の卵とぢ 長尾閑
春暁や拭きたる卵籠へもどす 中田剛
鶏卵を市電で割りぬ啄木忌 攝津幸彦
校門の陰に春暮の卵佇つ 攝津幸彦
黄卵のやうな春月先斗町 山岡季郷
生みたてのたまごのこころ春の月 稲垣恵子
朧夜を卵をなぞるごと歩む 守谷茂泰

【夏】
オムレツに赤い記号や聖五月 矢野玲奈
麦秋や会ふたび食ぶ茹卵 中西夕紀
早苗饗の馬に鶏卵割り呑ます 岡野風痕子
そら豆のみどり玉子焼のきいろ 藤田哲史
豌豆の玉子綴ある誕生日 しかい良通
鶏卵を買ひきて拡ぐセルの膝 野澤節子
生卵供へて神や夏落葉 岩田由美
梅雨の鶏舎より真白な卵もらふ 千代田葛彦
新鮮な卵の上の蝿叩 小路紫峡
父の日の生みたて卵賜はりぬ 牛山一庭人
冷蔵庫にいつも卵のある不安 前田典子
洛中に地卵が来る日の盛 大屋達治
腐りたる暑中見舞の卵かな 正岡子規
なんとなく鶏卵とがり百日紅 斎藤玄
うちつけて卵の頭蓋割る晩夏 皆吉司
鶏卵の白のまぶしき終戦日 猿渡藜子
ひとつづつ玉子にシール終戦日 小高沙羅
中華かな卵とトマトのみ炒め 松尾清隆

【秋】
秋簾立てて地卵売りに出す 松本旭
秋風を呼ぶ東京の無精卵 坪内稔典
秋風や卵燒でも出來んか喃(のう) 永田耕衣
妻に卵われに秋富士の一と盛り 金子兜太
敬老の日の卵黄に力あり 梶山千鶴子
空澄むや今朝もつるりとゆで玉子 大平正通
十月の鶏卵眠る肩を寄す 磯貝碧蹄館
うそ寒や卵の殻に残る水 金子敦
味噌汁と卵と海苔と文化の日 城台洋子
拉麺に落とす卵や冬支度 佐藤涼子

【冬】
暗がりに卵たくはへ冬はじめ 鷹羽狩行
冬ざれや卵の中の薄あかり 秋山卓三
冬の朝並びし玉子二個つかふ 花岡孝子
生卵枯れゆく旅にて顔もたず 寺田京子
茄で卵むけば日向に浮寝鳥 桂信子
庭鳥の卵うみすてし落穂哉 其角
卵黄のごとくに日あり冬の雲 阿波野青畝
極月の卵をつつむ新聞紙 小島千架子
十二月八日卵黄漲りぬ 原田喬
卵ほごす冬の至れる日なりけり 高橋睦郎
卵にも生年月日冬ごもり 風間史子
おでん鍋いつも余分にある玉子 太田弘子
すき焼や玉子解く音聞こえだす 小川軽舟
雑炊に卵二つをぽんと割る 星野椿
一月十二日とペンで玉子に書く 星野立子
ふゆの春卵をのぞくひかりかな 夏目成美
春隣割りし卵に黄味二つ 安田恒子
待春や病舎に菜売りたまご売り 石橋秀野

【新年】
玄関に鶏卵生む淑気かな 小谷舜花
人日の椀に玉子の黄身一つ 野澤節子

【無季】
くらやみへ くらやみへ 卵ころがりぬ 富澤赤黄男
朝起きて無精卵とか喰ひにけり 阿部完市
たまごやきやまと絵に木のありにけり 阿部完市
あくまで白き卵産みつぐ工区の鶏 穴井太
生みたての卵のような嫁がきた 暉峻康瑞
鶏卵屋の噛み殺したる生あくび 仁平勝
電球は裸がよけれ生たまご 仁平勝
青年を見詰む口中に生卵 鳴戸奈菜


【ゆでたまご】
ゆで卵むけばかがやく花曇り 中村汀女
茄で卵むけば日向に浮寝鳥 桂信子
麦秋や会ふたび食ぶ茹卵 中西夕紀
空澄むや今朝もつるりとゆで玉子 大平正通

【たまごとじ】
古妻の即ち韮の卵とぢ 長尾閑
筆塚に摘みし土筆を卵とぢ 大庭星樹

【卵焼き】
わかち合ふ玉子焼あり秋の風 久米三汀
秋風や卵燒でも出來んか喃(のう) 永田耕衣
たまごやきやまと絵に木のありにけり 阿部完市
そら豆のみどり玉子焼のきいろ 藤田哲史

【生卵】
建国記念日すでに冷たき生ま卵 高野万里
青年を見詰む口中に生卵 鳴戸奈菜
生卵供へて神や夏落葉 岩田由美
生卵枯れゆく旅にて顔もたず 寺田京子
電球は裸がよけれ生たまご 仁平勝
三月十日もんじゃに落とす生玉子 田付賢一

【オムレツ】
オムレツに赤い記号や聖五月 矢野玲奈

*おすすめの「卵」の一句をご投稿ください。自薦他薦は問いませんが、採否は管理人にご一任ください。ただし自薦は、複数句投稿の場合も、1句のみの掲載とさせていただきますので、ご了承ください。



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