米国のへそのあたりの去年今年 内村恭子【季語=去年今年(冬)】

いよいよ、そのアメリカを詠んだ掲句を「女神」より。1月1日の阪西敦子さんの鑑賞に続き、季語は新年、〈去年今年〉。

米国のへそのあたりの去年今年

(こめ)」の「(くに)」ならば、米を主食とする日本国を表すのに適しているように思うが、ご存知の通り〈米国〉は「アメリカ合衆国」のことで、漢字表記した場合の「亜米利加合衆国」の略だという。英語の「アメリカ」の発音が、日本人には「メリケン」と聞こえたため、その漢字表記「米利堅」の頭をとって〈米国〉になったという説も。

一読して、〈米国のへそのあたり〉の〈へそのあたり〉という表現から、広大な面積を持つアメリカに漂うおおらかな気分が立ち上がる。

作者は、その〈へそのあたり〉で〈去年今年〉を体験したのだろう。

〈米国〉は、本土である北アメリカ大陸の48州とアラスカ州、ハワイ州の50州からなっている。掲句の楽しさは、まず、その〈米国の〉でアメリカの本土の横に長い形、――筆者には左向きの鯛焼きに見えるのだが、――が目に浮かぶところ。

次にアメリカの〈へそ〉つまり中心へと意識が向いていくところ。鯛焼きにへそがないことはさておき、〈米国のへそ〉とはどのあたりだろう。

まさに「アメリカのへそ」と呼ばれているカンザス州だろうか。ここはアメリカの穀倉地帯の中心でもあり、おもな農産物は小麦、トウモロコシ、大豆。限りなく広がる大草原が魅力の地。「オズの魔法使い」の舞台としても知られていることもあって竜巻の多発地帯なのだそうだ。

そして、大晦日の一夜にして去年と今年が入れ替わることを表す〈去年今年〉により、大晦日のカウントダウンのあと、カンザスの大草原に揚がる花火の景が想像できるところ。

それだけでも十分楽しいが、掲句には、読者がさらに想像を進める余地がある。

米国のへそのあたりの去年今年

たとえば、アメリカでの〈去年今年〉を思うとき欠かせないのが時差。日本は全国同時に新年を迎えるが、アメリカには本土に、東部時間、中部時間、山岳部時間、太平洋時間の4つの、そして本土以外に、アラスカ、ハワイの2つの、合計6つのタイムゾーンがあり、その順で1時間ずつ遅れているので、アメリカ国内で新年を迎える時間は最大で5時間違ってくる。たとえば中部時間のカンザスは東部時間のニューヨークより新年を1時間遅く迎える。

アメリカの6つのタイムゾーンに従って東から西に移りゆく年。そのカウントダウンと花火を、心の目で鳥瞰してみるのも楽しい。

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