コンゲツノハイク【各誌の推薦句】

【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2024年3・4月分】


【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2024年3・4月分】


ご好評いただいている読者参加型コーナー「コンゲツノハイクを読む」、2024年も続いてます。リリースがたいへんに遅れてしまってごめんなさい。今回は3月・4月分合同にて、5名の方にご投稿いただきました。ありがとうございます(掲載は到着順)。


ほどほどといふ詰まらなさ枯木折る

山田蹴人

「秋麗」2024年2月号より

先日、府中美術館にて「地獄極楽図」(金沢市照円寺所蔵)を見た。その絵によると、地獄にはランクがあり、罪の数によって罰が異なるらしい。歩みを進めるにしたがって苦しみの増す阿鼻叫喚の人間の表情や、どんどん猛りを増す炎の描写を、こう言っては何だが楽しく見てしまった。続けて菩薩様や天女が舞う、実に安らかな極楽図が展示されているのだが、さっきの楽しさが薄れ、ほぼ素通りしてしまった。つまらないとつい思ってしまう不謹慎さ。美術館をあとにしてから、この句が目にとまった。どうせ酷い目に遭うならとことん、なかなか味わえない経験を死後に、というのもありかなと思ったりした。

藤色葉菜/「秋」)


あめんぼう今日はあめんぼうとし

渡邉照香

「海原」2024年1・2月号より

蟻とかになってみたりしないの?
え?そんなあ毎日よう働かんわぁ
ありえへん。。。
そしたら、螽斯なんかになって音楽家になるとかは?
う~ん、、、そんなん無理や~
楽器はむずかしすぎりきりすぅ
ふーん。そんならやっぱり、あめんぼうかぁ
そうやね。水にぽわぽわ浮いてるんが一番やな
うん、わしもそうや
ぼうぅとして浮かんでるんがいいなあ
けど、けっこう微妙は力のバランスがいるんよよねぇ
そうそう、おめぇもそうかぁ
まあ、たまには違うもんになってもいいけどな
今日はあめんぼうとしてがええなあ
そやなあ めんどうなことはあんまりしたないなぁ

月湖/「里」)


ご近所も心地よき音蒲団干す

前田勝洋

「天穹」2024年3月号より

今はマンションのベランダに蒲団を干すことは御法度。況んや煩いだけでなく埃やダニの死骸を撒き散らすので蒲団を叩くなど「不適切にもほどがある!」

さて、昭和の団地にタイムスリップすれば、ベランダには色とりどりの蒲団が干され、日曜日の午後ともなるとお父さんたちがラケット様の「ふとん叩き」という専用の道具を手に力一杯叩き始める。恰も音の響きや大きさを競うように。その競技が終わると蒲団は一斉に取り込まれる。夕方にはテレビから「笑点」や「サザエさん」のテーマが漏れ聞こえ、お母さんの作る「バーモントカレー」の香が漂ってくる。懐かしき昭和の一句。


 種谷良二/「櫟」)


書初の大腿骨のやうな一

藤尾ゆげ

「街」2024年4月号より

「大腿骨のやうな一」とはなんとも豪快な比喩だ。「一」の筆のはじまりとおわりに墨の溜まったところがあり、一本の立派な骨のように見えるのだ。大腿骨は股関節から膝までの太ももの骨であり、人間の骨格のなかで最も長い骨。この大腿骨が骨折すると大変で、それがきっかけで寝たきりになってしまうことも。年齢を重ねるにつれて、その大事さを実感することの多い骨だと思う。そんな大腿骨を書き初めのシーンで正月早々思い浮かべているところに俳諧味がある。健やかな一年を願ったのかもしれない。

千野千佳/「蒼海」)


注射針しづかに抜かれ冬の月

丑山霞外

「炎環」2024年2月号より

注射針が抜かれる様子を見ている、あるいは感じている。抜かれるその佇まいが静かだ。昼白色の自然な光に満ちた処置室の静けさの中にいた読者は、下五で不意に冴え冴えとした月光を見上げる。夜だ。何の病か採血かわからないが、静謐な不安と安堵を感じる。「しづかに」や「冬の月」がこの気分をつくっているが、何より「注射」という受動態、相手に体を委ねきっている無抵抗な状態が終わる間際の気分だろう。そして、づか、抜き、月、と連続する[k]の音象徴が抵抗感と解放感のサウンドスケープを演出している。

小松敦/「海原」)



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