【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2025年5月分】

【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2025年5月分】


「コンゲツノハイク」から推しの1句を選んで200字評を投稿できる読者参加型コーナーです。今月は8名の皆様にご参加いただきました。ありがとうございます!


早春や塀の下から犬の鼻
川口藍々
「鷹」
2025年5月号より

外で飼われている犬だろうか。この犬は、鼻だけをこちら側に見せている。塀にある穴から、少しは姿が見えているかもしれない。人の気配を感じて塀のところまで来ているのだろう。時々鼻息が荒くなる。コミュニケーションをとろうとしているのだろうか。人懐っこそうな犬である。人間もそれを見て立ち止まっている。犬と人がお互いを気にして近づいている光景と、春の訪れを感じる「早春」の季語が響き合う。

弦石マキ/「蒼海」)


宝石をつまむてぶくろ鳥の恋
髙橋真美
「秋草」
2025年5月号より

たとえば宝石店などでよく見る場面。
手袋ごしに宝石をつまむ——手袋は距離や制限のメタファーだろうか。直接手で触れず、何かを隔てて触れる行為には「触れたいけど触れられない」「壊したくないから丁寧に扱う」という微細な感情が見え隠れする。

そこから下五「鳥の恋」への展開。季節の息吹をもたらす鳥の恋。どこか純粋で衝動的な恋のあり方への憧憬にも感じた。季語による鮮やかな転調が心地よく想像の余白がたのしい佳句である。

押見げばげば


刈られゆく羊を羊見てゐたる
松田晴貴
「秋草」
2025年5月号より

海外への旅によく行きますが、主として自然の多い場所。ですから、羊を目にすることが多くあります。
羊にも色々な種類があり、大きさ、毛の色、様々ですが、冬の寒さに耐えるための毛の多さには、あまり違いがありません。
冬が終わると、人間がぐいと羊を抑え、専用のバリカンで皮膚が透けるほどに刈ってゆきます。
それを見つめる他の羊の「早く刈っておくれよお」という心の声が、私にはよく聴こえます。掲句には、まさにその声が宿っているようであります。

卯月紫乃/「南風」)


かつこかつこと削る鰹節春隣
兒玉猫只
「澤」
2025年4月号より

鰹節削り器でまるまる一本の鰹節を削る。「かつこかつこ」というリズミカルなオノマトペが的確で楽しい。「かつぶし」という言い方も粋だ。上五中七のカ行の音の重なりがきっぱりと響いて非常に心地がいい。季語「春隣」に、まだ寒い季節の台所のきりりとした空気、刻々と春に近づいていることを感じる、あの強い日差しが見えてくる。もっぱら「ほんだし」の顆粒を使っているのだけど、この句を読むと鰹節を削ってみたくなる。

千野千佳/「蒼海」)



お隣の門の前まで雪を掻く

山崎ひさを
「青山」
2025年4月号より

お隣さんのそこまで遠くない街中、住宅地の冬。うかがわれるのは「お隣の門の前まで雪を掻く」人とお隣さんとの絶妙な関係性。ただ、掻いた人とお隣の人の様子、年齢、性別などはすべて書かれていない余白にあり、そこから読み手の想像によって生まれる詳細な関係や物語が、読み手の数だけ立ち上がって。
それが俳句プレ幼稚園児にとても難しい、俳句なところなのかなと。
個人的にはその関係性に、いくつものイギリス文学でいうユーモアを内包するような物語がと思い、とてもおもしろい句と思いました。きっとこの雪掻きは大変で楽しくない。でも、ここから始まる何かが、きっと。

haruwo/「麒麟」)


クロッカス戸籍汚せと占ひ師
石井千鶴
「街」
2025年4月号より

「占ひ師」は、くぐもった低い声で言う。「すべてを捨てて、本当に愛する人と共に生きなさい。きっとうまく行く。あなたは幸せになる」作中主体は固唾を飲み、暗く小さな部屋で占い師を正面に見据え、一語一句聞き漏らすまいとその言葉を聴いている。ふわふわした夢見がちな雰囲気はなく、戸籍を汚した後のことを少し憂いつつ、どんなことが起ころうと乗り越えて見せるという意志の強さも感じられる。上五の「クロッカス」が効果的で、一句全体を引きしめている。

さざなみ葉/「いぶき」)


うぐひすや校舎の上に天文台
しなだしん
「青山」
2025年4月号より

中学校の屋上に天文台.。昭和41年(1966年)に富士市立鷹岡中学校に設置されてから、天文台は学校のシンボルとなり、ことし60年目を迎えているとか。最近のニュースで見たから印象に残っている。物と季語だけで表現された句は、読者が物語を自由に考えられ、奥が深い。

野島正則/「青垣」「平」「noi」)


蝦夷栗鼠の墨痕かけめぐる雪野
増田植歌
「雪華」
2025年5月号より

「蝦夷栗鼠の墨痕」と言い切ることで「墨痕」に命が吹き込まれ、「かけめぐる雪野」でダイナミックで鮮烈な映像が活き活きと展開する。中七の句跨りがリズミカルで力強い生命の連続性を感じさせる。「雪野」の体言止めの後の余韻に、坂本直行が描く雪原のタッチを思い起こすのは私だけだろうか。耳から手先足先尻尾までふさふさとした「蝦夷栗鼠」は、可愛らしいシマリスと違って冬眠もせずに厳しい冬を活発に生き抜く。そんな「蝦夷栗鼠」と同じ大地に生きる者だからこそ詠めたのだと思う。

小松敦/「海原」)



【次回の投稿のご案内】
◆応募締切=2025年5月30日
*対象は原則として2025年5月中に発刊された俳句結社誌・同人誌です。刊行日が締切直後の場合は、ご相談ください
◆配信予定=2025年6月5日
◆投稿先 以下のフォームからご投稿ください。
https://ws.formzu.net/dist/S21988499/

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