季語・歳時記

【夏の季語】梅雨入/入梅 梅雨に入る 梅雨きざす

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【解説】「梅雨入」とは、梅雨に入ること。一般的には、「つゆいり」ですが、俳句では「梅雨入」を「ついり」と3音で読むこともありますので、ご注意。

6月から7月にかけて、全国的に雨が多くなるシーズンです。これは全国的な現象であるだけでなく、大陸(韓国・中国)にも見られるもの。語源は、「梅の実が熟す頃に降る雨」という意味の「梅雨(めいゆ)」が中国から江戸時代に伝わったという説もありますし、「雨でジメジメしていてカビが生えやすい」という意味の『黴雨(ばいう)』だったものが語感が良くないので『梅雨』に転じたという説もあります。でも、歳時記のネットワークでは、「実梅」も「黴」も夏の(6月くらいの)季語なんですよね。

実際には、気温が高くじめじめすることもあれば、冷えて「梅雨冷」となることもあります。毎日が雨ではなく、「梅雨晴間」になることもあれば、いまにも雨になりそうな「梅雨曇」になることも。梅雨入りしたのに、あんまり雨が降らないことを「空(から)梅雨」と呼んだりすることもあります。梅雨関連の季語は、たくさんあるので、うまく使い分けたいところですね。

「北海道には梅雨はない!」ということは昔から言われてきましたが、2020年は6月の後半に入って曇りや雨の日が続き、梅雨を思わせる天気となりました。北海道は、梅雨前線が北上して迫ってくるだけではなく、オホーツク海高気圧が勢力を増して、雲が増えるということも。この時期のすぐれない天候は、昔から「蝦夷(えぞ)梅雨」と呼ばれてきましたが、最近はとみに増えているのだとか。これも温暖化の影響なのでしょうか。

蝦夷梅雨の牛の涎(よだれ)のやうな空 鈴木牛後
蝦夷梅雨の馬具は革へと戻りたき 鈴木牛後

合わせて、鈴木牛後さんのブログ「牛後俳句とエッセイ(第18回)蝦夷梅雨の馬具は革へと戻りたき」もお読みください。

いずれにしても、「梅雨入」というのはパブリックに(つまり気象庁が)発表するものなので、つまり客観的なデータをもって「いつもの季節がめぐってきた」という感慨が含まれるのではないでしょうか。「いつも通り」であることの喜びと、そして雨がつづくことの疎ましさ。もちろん、農業に従事している人にとっては、日照時間の変化などは死活問題です。

では、天気予報がなかった江戸時代はどうしていたのでしょうか。誰かが「梅雨入」を客観的に示してくれるわけではありません。どうしていたかというと、暦のうえで決められていたんですよね。それが「入梅(にふばい)」です。

ん? 「梅雨入」と「入梅」ってちがうの??

と思われたみなさん、はい、厳密にいえば違います。「入梅」は、太陽の黄径が80度に達する日。「芒種」から数えて6日め頃の最初の「壬(みずのえ)」の日にあたります。その日を境に約30日間が「梅雨」とされ、これが田植えの日を決める目安となっていました。そういうわけで歳時記のネットワークのなかでは「田植」と密接に結びついている季語、というわけです。

というわけで、この「入梅」のおわりが「出梅」。陰暦でいえば「夏至」 のあと、最初の「庚 (かのえ) 」の日。あるいは、「小暑」のあとの最初の「壬」の日ともいわれています。

現在の気象用語では「入梅」「出梅」は使われませんので、もっぱら俳句としては「梅雨入」(梅雨に入る)を使うことが、多くなりました。


【関連季語】六月、芒種、梅雨、梅雨寒、空梅雨、梅雨明、実梅、黴、田植など。

【梅雨入】
河骨に日は照りつゝも梅雨入雲 西島麦南
月いでて見えわたりたる梅雨入かな 飯田蛇笏
人も木もそはそはしかる梅雨入前 相生垣瓜人
鰻屋の二階明るき梅雨入かな  鈴木真砂女
梅雨入りの芭蕉は柱並べけり 宇佐美魚目
大津絵の墨色にじむ梅雨入りかな 宇多喜代子
梅雨入や礁まはりの波白し 小澤實
大都心ビル高々と梅雨入りす 稲畑廣太郎
卓拭いて給仕去りたる梅雨入かな 榮猿丸
あら嫌なおかみさんだね梅雨入だね 澤田和弥

【梅雨に入る】
梅雨に入る八つ手の古葉焚きしより 久保田万太郎
世を隔て人を隔てて梅雨に入る 高野素十
箒木も臼の丈なり梅雨の入り 高田蝶衣
睫毛つよくまたたく梅雨に入るらしく 加藤楸邨
ねずみ捕り口開け置かれ梅雨に入る 菖蒲あや
身にまとふ憂ひと共に梅雨に入る 相馬遷子
梅雨に入る金魚の緋色見たるより 細見綾子
あまつさへ梅雨に入る日の電車事故 森田峠
何もかも溜息ひとつ梅雨に入る 今井千鶴子
梅雨に入る夫なきくらしにも入る 安田悦子
杉は杉色松は松色梅雨に入る 今瀬剛一
断髪の元小結や梅雨に入る 仁平勝
けふ梅雨に入りし近所の鳩の数 山尾玉藻
一千万都民水待ち梅雨に入る 稲畑廣太郎
梅雨に入り藤棚の下人もなく 田中裕明
吊革のしづかな拳梅雨に入る 村上鞆彦 
いくつもの肩にぶつかり梅雨に入る 兼城雄

【梅雨きざす】
屋根に置く石の歳月梅雨兆す 和田順子

【入梅】
入梅や発禁句集未だ成らず 三橋敏雄
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