旅いつも雲に抜かれて大花野
岩田奎
2017年に行われた「俳句甲子園」の最優秀賞句。
この一句が想像力の起点としているのは、まぎれもなく「旅」という言葉である。
物質としての言葉としてではなく、読み手に個人的体験を喚起するための身体的なことば。
同時に、『おくのほそ道』を例に出すまでもなく、「旅」は俳諧/俳句史をつらぬくモティーフのひとつでもある。
しかし、わが身を振り返ってみれば、年を重ねれば重ねるほど、脳内を占める雑事は増えるばかり、風に身を預けてしまえるような「旅」はむずかしくなっていく一方。
そのせいか、この「大花野」には、たどりついた瞬間からその存在が霞んでいくような、フィクショナリティを感じる。
それは、ここで江渡華子が書いているように、この「大花野」の正体を、「目標と安定と、バランスがとても取れている世界ではないだろうか」と彼女は書ていることと、ある意味では同じこと。
生きている以上、「目標と安定と、バランスがとても取れている世界」は、そう達成できるものではないからである。
達成した瞬間から、つぎの目標によってバランスは崩れてしまう。その反復される不安定性を、わたしたちは「旅」と呼ぶのだし、そういう不安定性をもたらしてくれるもののことを、わたしたちは「雲」と呼ぶのだ、きっと。
作者は今年、角川俳句賞を受賞することになった。
これまでの最年少記録(田中裕明)を更新しての、21歳での受賞である。
(堀切克洋)
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