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人はみななにかにはげみ初桜 深見けん二【季語=初桜(春)】


人はみななにかにはげみ初桜

深見けん二


初桜とはその年に初めて咲いた桜のこと。初めて出会った桜の花ということ。

「ああ、今年も桜が咲き始めたなあ」という花に出会えた喜びが、そこにはある。

俳句では花と言えば桜のことを言うが、花を待つ心というのはいつになっても変わることがない。桜は日本人にとって特別な花だ。

そして桜の花ほど、日月のめぐりを感じさせてくれるものはない。あと何回桜の花を見られるだろうか。そんな話が交わされるのも桜ならでは。

今年も去年につづいて桜の開花は早いようで、東京の開花予想は三月十五日、満開は二十三日頃になるそうだ。 

初桜とすでに出会った人もいるのだろう。

  人はみななにかにはげみ初桜

「人はみななにかにはげみ」という言葉が心に沁みる。

本当にその通りだと思う。

ささやかでも、取り立てて目に見えることでなくても、人は誰しも何かに励んでいる。

そしてそれは、「生きていく」ということと同義なのだと気づかされ、ふたたび、はっと心を掴まれるのである。

日下野由季


【日下野由季のバックナンバー】
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>>〔1〕渡り鳥はるかなるとき光りけり    川口重美


【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。



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