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長き夜の四人が実にいい手つき 佐山哲郎【季語=長き夜 (秋)】


長き夜の四人が実にいい手つき

佐山哲郎


日の入りが段々早くなってきた。夕暮れのうっそりとした暗さは“誰そ彼時”と呼ぶのも肯けて、ついこの前までの季節が嘘のよう。秋だなあ、なのである。しみじみ夜が長くなってくるのである。

そんな夜長に集まった四人が何かやっている。その手つきがいい、という。四人と言えば、乏しい想像力では思いつくのはカルテットや麻雀程度だ。楽器を扱う流麗な指遣い、あるいは巧妙な牌捌きを目に浮かべるけれど、どちらも「手つき」のニュアンスとはちょっと違う。一体どんなシチュエーションなのだろう。曖昧と言えばとてつもなく曖昧で掴みどころがない。

句会だったら、四人でなければいけないのかとか、「実にいい」は読者に判断させるところで、それよりも動作を具体的に表現しましょう、とかの声が聞こえそうだ。その意見も分かる。然し待て、いや、待って下さい。

まずは音読してみよう。

Nagaki Yo no Yonin ga Jitsuni Ii Tetsuki

抑揚のある調べに気づきませんか。「長き夜の四人」の”ヨノヨ”は「さのさ」のような囃子詞に似て調子がいい。この調子の良さを導き出すのが四人の意義なのではないか、と思えてくる。そして、「実にいい手つき」のイ音の反復。ことに「実にいい」の響きは大らかで(私としては「いい~」と心持ち長めに読んでほしい)、要の部分を十分盛り立てている。内容よりは韻律だ、とまでは言わないけれど、舌に乗せて快いのが韻文の味わいではあり、読み心地の良さの前には、人数の必然性やシーンの具体性などは二の次でもいいではないか、いけませんか。

四人の仲間内で何かが行われている。その様子をちょっと離れたところで「いいねえ」と目を細めて眺める別人物(作者と言ってもよいが)がいる。その人物の姿に俳句の外側から見惚れる私(読者)がいる。そんな入れ子構造になっているところもこの句の面白さだ。

それにしても彼らは何をやっているのだろう。酔漢のジェスチャーごっこかしら、それとも、おばちゃんたちがお団子を丸めているのかしら。あれやこれやと想像を巡らせるのもまた夜長の過ごし方としていいものです。

『娑婆娑婆』(西田書店、2011)より。

(太田うさぎ)


🍀 🍀 🍀 季語「長き夜」については、「セポクリ歳時記」もご覧ください。


【執筆者プロフィール】
太田うさぎ(おおた・うさぎ)
1963年東京生まれ。現在「なんぢや」「豆の木」同人、「街」会員。共著『俳コレ』。2020年、句集『また明日』

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