ポインセチア四方に逢ひたき人の居り 黒岩徳将【季語=ポインセチア(冬)】

ポインセチア四方に逢ひたき人の居り

黒岩徳将


ポインセチアを見かける季節になってきた。喫茶店やレストラン、大きな建物のロビーといった人と人が会う場所でよく目にする。このあいだ近所のスーパー銭湯に行ったら、出入口の二重扉の間にある風除室の隅に一つ置かれていた。小さな鉢だったが、それでも赤い葉をぐっと広げている様子が健気だった。

掲句は、大勢いる〈逢ひたき人〉への思いをポインセチアに託して述べた純情な一句である。年末年始にどんな人に逢えるか、予定を確認しながらいろいろな顔を思い浮かべている。そんな人物を想像した。

逢いたいということは今は逢えていないのだが、あまり寂しさを感じさせない。それはポインセチアの持つ雰囲気が作用しているからだと思う。〈四方〉が葉の形状に合っているところも見逃せない。

セクト・ポクリットを読んでいる方々には黒岩さんの活動や人柄を僕よりよく知っている人が多いだろうから僕が語るのはおかしな話だけれど、たとえば現代俳句協会での活動や現在出演されているNHK俳句のミニコーナー「クロイワの俳句やろうぜ」を思い起こすだけでも〈四方〉が誇張ではないのがよくわかる。作者のイメージを重ねて読める句である。

調べてみると掲句は第6回石田波郷新人賞奨励賞を獲った20句のうちの1句として「俳句」2015年1月号に載っていた。10年以上前の句なのだ。当時を知っている方なら当時の黒岩さんの雰囲気で読めるのかな、と後から知った読者として想像するのも楽しい。

掲句が収録されている第一句集『渦』から、会っているときの句を引いてみる。

フランベに喝采春夜六畳間

家飲みの盛り上がりがまぶしい一句だ。燃え上がる炎を見せてから時間と場所を順番に開示していく述べ方は、すべてが終わったところから語っているようでもあり、切なさも感じられる。

サンダルで机の下に蹴り合へる

この句もその場の一瞬の盛り上がりが捉えられている。見えないまま適当に脚を繰り出す様子や、足と足が無造作にぶつかる感触などがとても懐かしい。心がくすぐられる場面だ。

黒岩さんの俳句は、一挙手一投足を見逃さない。「ああ、そんな場面あったなあ」「ああ、たしかに人はそういうことをするなあ」と言いたくなるような、特に人間のチャーミングな部分をきゅっと詰まったリズムの俳句で描き出してくれる。『渦』にはそんな魅力的な句がたくさんある。

友定洸太


【執筆者プロフィール】
友定洸太(ともさだ・こうた)
1990年生まれ。2011年、長嶋有主催の「なんでしょう句会」で作句開始。2022年、全国俳誌協会第4回新人賞鴇田智哉奨励賞受賞。「傍点」同人。


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2024年12月の火曜日☆友定洸太のバックナンバー】
>>〔5〕M列六番冬着の膝を越えて座る 榮猿丸

【2024年12月の水曜日☆加藤柊介のバックナンバー】
>>〔1〕大いなる手袋忘れありにけり 高濱虚子

【2024年12月の木曜日☆木内縉太のバックナンバー】
>>〔1〕いつの日も 僕のそばには お茶がある 大谷翔平

【2024年11月の火曜日☆友定洸太のバックナンバー】
>>〔1〕あはれ子の夜寒の床の引けば寄る 中村汀女
>>〔2〕咳込めど目は物を見てゐてかなし 京極杞陽
>>〔3〕冬の虹忘れてそして忘れ去る 藤井あかり
>>〔4〕あんなところにからうじてつもる雪 野名紅里

【2024年11月の水曜日☆後藤麻衣子のバックナンバー】
>>〔6〕うれしさの木の香草の香木の実の香 黒田杏子
>>〔7〕神の旅耳にあかるき風過ぎて 中西亮太
>>〔8〕読み終へて本に厚さや十二月 鈴木総史
>>〔9〕冬蜂の事切れてすぐ吹かれけり 堀本裕樹

【2024年11月の木曜日☆黒澤麻生子のバックナンバー】
>>〔6〕立冬や日向に立てば湧く力 名取里美
>>〔7〕母の目の前で沸かして湯たんぽへ 守屋明俊
>>〔8〕常連とならぬ気安さ帰り花 吉田哲二
>>〔9〕短日や襁褓に父の尿重く 相子智恵

関連記事