【夏の季語=仲夏(6月)】燕子花(杜若)
かきつばた。湿地に群生し、毎年5月から6月にかけて紫色の花を付ける。
根津美術館が毎年夏のはじめに公開する、総金地の六曲一双屏風に、濃淡の群青と緑青によって鮮烈に描きだされた「燕子花図屏風」(尾形光琳)が有名。〈杜若語るも旅のひとつ哉〉(松尾芭蕉)のように、夏の古典的な季題のひとつである。
『伊勢物語』で在原業平がカキツバタの歌(〈から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ〉)を詠った場所とされることにちなみ、愛知県の県花ともなっている。京極杞陽の句に〈業平はいかなる人ぞ杜若〉がある。
江戸時代の前半には既に多くの品種が成立しており、古典園芸植物の一つでもあるが、江戸時代後半には「花菖蒲」が非常に発展して、燕子花はあまり注目されなかった。
後藤夜半に〈あやめとも杜若とも僧答へ〉という句があるとおり、花菖蒲、および渓蓀と似ているが、花弁の付け根を見れば判別できる。「渓蓀」は網目模様、燕子花は白い一筋の線、「花菖蒲」は黄色になっている。
【燕子花(杜若)(上五)】
杜若絵巻のごとく咲き揃ひ 京極昭子
かきつばた池鯉鮒を男とほりけり 加藤耕子
杜若水を余白としてゐたり 村上喜代子
杜若切リすて罪と罰を戯る 仁平勝
かきつばた丹後の空の縹色 德田千鶴子
杜若水ただならぬところあり 田中裕明
かきつばた日本語は舌なまけゐる 角谷昌子
【燕子花(杜若)(中七)】
【燕子花(杜若)(下五)】
折り添て文にも書かず杜若 夏目漱石
いにしへのそのいにしへの杜若 京極杞陽
雨雲のあつまつてくる燕子花 鈴木六林男
死神と逢う娯しさも杜若 永田耕衣
からぐるま死角の轍かきつばた 仁平勝
西へ向えば群衆の人杜若 仁平勝
からからと雨戸を廻す杜若 長谷川櫂