嘘も厭さよならも厭ひぐらしも 坊城俊樹【季語=ひぐらし(秋)】

嘘も厭さよならも厭ひぐらし

坊城俊樹
(『坊城俊樹句集』)

 作者は、昭和32年、東京都生まれ。母方の曾祖父・高浜虚子、祖父・高浜年尾、父・坊城としあつ、母・坊城中子がともに俳人であり、俳句を詠む宿命のもとに育った。父方は、旧華族坊城家の流れを汲んでおり、曾祖父・坊城俊章、祖父・坊城俊賢はともに貴族院議員である。妻の美奈子は伏見宮家・尾崎光子の娘。いわゆる高貴なお方である。

 学習院大学卒業後、祖父・年尾のもとで俳句を学びつつ、損害保険会社に勤務。昭和63年、31歳の時、第9回日本伝統俳句協会新人賞を受賞し俳句に専念する。平成23年、54歳の時、母・中子より「花鳥」主宰を継承。「ホトトギス」同人。元日本伝統俳句協会理事・事務局長。現代俳句協会会員、一般社団法人霞会館会員。

 句集に『零』、『あめふらし』、『日月星辰』、『坊城俊樹句集』、『壱』 、著書に『虚子百句・俊樹百句』、『切り捨て御免』、『丑三つの厨のバナナ曲るなり』、『空飛ぶ俳句教室』、『俳句川柳短歌の教科書』などがある。

 高浜虚子の花鳥風詠の精神を受け継ぎ、平明を心がけつつ、さらには「真実と虚構」「聖と俗」「写生と抽象」などの句が鬩ぎ合う独自の世界を構築した。

 写生にも客観写生、主観写生があるが、そのどちらもただ事では終わらない。平明なように見せかけていて、奥行きを持ち、時には複雑である。

  一本の棒は蝮となりにけり

  炎天や油のやうなヘリの音

  子にげるか鼠花火のころげるか

  秋の人白し燈台なほ白し

  灯すや文字の驚く夜の秋

  冬灯二つ一つと消えて山

  竹馬の上に火星も金星も

  みよしののものみな濡れし花人も

  ほつぺたをぴかぴかにして入学す

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