
橇走る大地を削る音鳴らし
野末トヨ
この句を読んで、まず耳に音が届きます。
橇が走る、そのときに生じる「大地を削る音」が、はっきりと鳴っています。
そしてその音は、雪の上を滑る軽やかな音ではなく、下にある大地に触れ、こすり、確かに抵抗を受けている重たい音です
音に導かれて想像されるのは、橇の大きさ、橇に載せられたものの重量、幾日も降り積もった厚くて硬い雪。特に雪の硬さが音を通して立ち上がってきます。
「走る」という動きの語に続いて、「削る」「音鳴らし」と、触覚や聴覚に訴える言葉が重ねられることで、橇は単なる道具ではなく、大地と直接関わる存在として見えてきます。
冬の自然は静まり返っているようでいて、その底では確かな力が働いている。その力のやり取りが、この一句に収められているように感じました。
橇は人の営みによって動きますが、その走行音は人の意思を超えて、大地そのものの声のように響いています。人と自然の境目が曖昧になり、ただ音だけが残る。その簡潔さが、この句の静けさを支えているのでしょう。
冬という季節の厳しさと豊かさが、誇張なく、しかし深く伝わってくる一句です。
(菅谷糸)
【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。

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