私の銀漢亭ものがたり
中村かりん(「稲」同人)
「昨日銀漢亭へ行ったでしょう。そしてまぐろを食べたな。」
ある日の句会の後の飲みの席で師匠の山田真砂年師がこうおっしゃった。
なんでバレた!? 昨日の今日、情報は漏れてないはず! そしてかなりの深酒、クダを巻いた自覚がある。
「なんで知ってるんですか!?」
と追及するが師匠はニヤリとするばかり。昨日の飲み会は「若手句会」で仲良くなった白井飛露さんが銀漢亭を予約して下さったもの。卒業しても会いたいねとOB会の立ち上げようとしたがなかなか場所が決まらない(「若手句会」は俳人協会の事業の一つ。50歳の誕生月までで卒業)。話が脱線するうちに憧れの大人の酒場、銀漢亭の話題になった。
「はいは〜い!予約取れます!」という飛露さんに私も私もと10人ほどいただろうか、ドキドキしながら銀漢亭に行った次第である。
亭主の伊藤伊那男さんはとても優しく、
「若者達、どんどん飲みにいらっしゃい。早くね。閉めちゃうかもよ。」
などと冗談をおっしゃる。
そして件のまぐろの登場。なんでも小野寺清人さんという、大層親切な俳人さんが釣って来てくださったという。銀漢亭のまぐろは釣るんだ!!と盛り上がり夜は更けたのだった。結局OB会の話は満場一致で私の好きにする事になり、現在の「マンハッタン句会」がある。いや、場所取りを好きにするだけなんだけど。
さて、真砂年師。なんでなんでと問い詰めると、
「前の日、まぐろが飲んでる横を通り過ぎて行った。」
なんだ、常連さんじゃん。連れてってくださいよう、とお願いし、飲む度に大事な話はメモする事にした。
「江頭じゅん、昭和の文人、いそだこういち、山本けんきちが森すみおにほれた」
これは最初に連れてってもらった時のメモ。サッパリわからない。同席していた「田」の上野犀行さんにも聞いたがサッパリ。こういうメモがあと7つある。大人の酒場だから遠慮して2ヶ月に一回くらい、仕事の買い出し先の浅草橋から銀漢亭の真砂年師を急襲したからだ。
私の銀漢亭の歴史は僅か一年。遠慮しなきゃ良かったな。そしていつも竹内宗一郎さんがいらしたのは偶然ではなかったことを、この「銀コロ」で知った。大人の酒場銀漢亭。いまでも銀漢亭と呟くと楽しい気持ちになる。
【執筆者プロフィール】
中村かりん(なかむら・かりん)
「稲」同人。熊本県生まれ。川崎市在住。区役所古典講座講師。天然石アクセサリー製作販売「marica」。句集『ドロップ缶』(中村ひろ子名義)にて第22回自費出版文化賞特別賞受賞。
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