【木曜日】は2か月交代で〈大学俳句会〉のみなさんにご執筆いただいています。「愛媛大学俳句研究会」からのバトンが渡ったのは「北大俳句会えぞりす」。4回目は択舞立風さんです。

択舞立風(北大俳句会「えぞりす」)
掲句は、現代俳句協会青年部が主催する、40歳以下の世代を対象とした10句連作の俳句のコンテスト「U-40 HAIKU CHALLENGE〜2026 SUMMER〜」にてKUREDA’S CHOICE(暮田真名個人賞)を獲得した連作「けど正解」の中の一句である。斎藤よひら氏は岡山県生まれで現代俳句協会、noi等に所属している。胡桃の殻を割ろうとしたが、割ろうとしてもなかなか割れず、その胡桃の殻の硬さゆえに、胡桃には胡桃の殻特有の開け方、解錠方法があるのだと感じさせられる。また、硬い殻で守るほどのものが中に詰まっているので、殻を割って中身を出したりしない方が胡桃のためになるだろうという感覚が伝わってくる。
この句で特筆したいのは、一物ではあるものの、季語である胡桃からはやや距離があるような描写がされている、言い換えると物事の意外な一面を句に落とし込んで新たな世界観を作り出している点である。具体的に胡桃で言うならば、普通は一物で描く場合、胡桃の形や胡桃を割る時の様子等に着目し、それをそのまま描写する事が大半だと思われる。しかし、この句では、胡桃の硬い殻に対し、硬い事を硬いとはっきり描写するのではなく、「硬いということは逆に割らない方が良いのでは?」という発想を持ち込んだのである。
実際、硬いものは無理やりこじ開けない方が良いという考えには納得がいく。こういった物事の裏を突くような考えとして筆者は吉本新喜劇の「邪魔すんなら帰って〜」の台詞が思い浮かんだ。(挙げた台詞を軽く解説しておくと、人の家などにあがる時に「お邪魔します」と言うと思うが、言われた側としては、言葉通りに意味をとるなら、邪魔されたくないので「帰ってくれ」と言いたくなるだろう?といった感じである。)吉本新喜劇の場合は、こういった逆転の発想ともいえる考えで笑いをとっているが、俳句においても同様におもしろさ、ユーモアをもたらしている。こういった効果を用いている句は他にもある。
桃はみな他の桃はみな苦いと言う/升 丁茶
掲句は、一句目と同コンテストで、KUREDA’S PICK(暮田真名推薦句)を獲得した、連作「東京」の中の一句である。升氏は、俳句雑誌「麦」等に作品が掲載されている。端的に言ってしまえば桃の美味しさを表した句であるが、擬人法を用いて、各々が美味しさをアピールしており、「我こそは!」「我こそは!」と桃が各々鍛錬している様子までも見えてくる。そして何より、「美味しい」の対義語ともいえる「苦い」という語を用いる事で効果的に桃の美味しさを表現出来ているように感じる。これが先述した逆転の発想ともいえる考えがもたらすユーモアである。
上に挙げた二句のように、物事の裏を突くような逆転の発想的な考えには、句にユーモアを込める効果があると筆者は思う。これまで俳句を創作してきて、絵画や音楽作品のような芸術や、俳句以外の文芸を俳句のネタとして落とし込んだり、そういった句を見ることは多々あったが、物事の裏をつく芸人的、落語的な発想を(若干取り入れる事はあれど)本格的に落とし込む事は先述した芸術分野に触れた句よりは見たことが無く、詠む難易度も高いように思う。美術の世界においては、単に美味い絵が評価されるというよりは、誰もやったことのない技法、前例のないような革新的な絵が高く評価されるそうだ。俳句という長年続く文芸でも芸人的、落語的感性を俳句に落とし込み、ユーモア溢れる作品が増える事を願うばかりである。
【参考文献】
現代俳句協会青年部「U-40 HAIKU CHALLENGE〜2026 SUMMER〜 結果発表!」2026年8月9日、https://gendaihaikukyokai-seinenbu.blogspot.com/2026/08/u-40-haiku-challenge2026-summer-entries-results.html、2026年8月15日最終閲覧
(択舞立風)
【サークルプロフィール】
北大俳句会「えぞりす」
2021年設立。北海道にゆかりのある大学生・短大生・専門学生によって構成されている。年2回刊の有志機関誌『旗手』を発行(オンライン販売はhttps://hokudaihaiku.booth.pm/)。文学フリマ東京43(2026年11月8日)に出店予定。
Eメール:haiku.ezorisu@gmail.com
X:https://x.com/hokudaihaiku
Instagram:https://www.instagram.com/hokudai_haiku/
【執筆者プロフィール】
択舞立風(えとまいのりっぷう)
2006年岡山県生まれ。
高校時代に小説を書くために文学部に入部したが、文学部では何故か俳句しかやっていなかったので、流れで俳句創作を始め、その後俳句甲子園全国大会に出場。
