旗のごとなびく冬日をふと見たり 高浜虚子【季語=冬日(冬)】


旗のごとなびく冬日をふと見たり

高浜虚子


いつ読んでもすごい句と思う。存外、言葉のこしらえ方としては力技なのであるが、しかし、するっと読んでしまって幻視させられてしまう感じがある。ぬぼーっとして強靭な句である。

いわゆる教則的な「客観写生」の手本として虚子を読みはじめるのは、正直あまりおすすめではない。というか、入門書に書かれるような注意事項を破りまくりなので、そういうのには向いてないところさえある。例えば、「凡そ天下に去来程の小さき墓に参りけり」というとてつもない字余りの句もあれば、「祇王寺の留守の扉や推せば開く」という無季の句もある。

虚子には、景の単純な描写に留まらず、見るという行為の不思議さえ書き留めた句がある。「たんぽゝの黄が目に残り障子に黄」などは、まさにその例である。「蛇逃げて我を見し眼の草に残る」などは、向けられた眼差しを自信が内面化しているところさえある。見ることについての狂気じみた思索や意識が伺える。

(安里琉太)


【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞



安里琉太のバックナンバー】
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>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
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